Dead Flowers

Suede シングル感想

1.序

シングル感想第2弾は、90年代イギリスで人気を博したスウェード。中性的で挑発的な世界観は、アメリカにはないイギリスならではのサウンドで、彼らの成功がイギリスのロックシーンを活気づかせて、オアシスやレディオヘッド台頭の下地を生んだと思う。

彼らはここのシングル感想で紹介しているスミスの影響が色濃いバンドで、90年代のバンドなら大体はスミスの影響を受けていたでしょうが、B面曲も手を抜かずに新曲を収録するという点もスミスに似ていた部分だと思います。

その証拠に彼らが3rdアルバムを出した後に、2枚組!のB面アルバム『Sci-Fi Lullabies』(全曲オリジナルアルバム未収録)を発売しており、いかに彼らがB面の制作に力を入れて曲作りしていたかが伝わってきます。初期の頃は自信曲やライブの定番曲もB面に回していたくらいで、さすがにそれは後に、若かったな~今だったらアルバムに収録していたのに。と若干後悔している模様。


スウェードのアルバムは、アルバム全体の雰囲気や完成度を重視していたのか静謐な曲が結構多く、反面B面曲にはバンドで作り上げたアップテンポな曲が多いので、スウェードというバンドとしての魅力は、B面曲を聴く方がストレートに伝わるのではないかと思っております。

オリジナルアルバムだけでスウェードを知った気になっている人は、正直片手落ちと言わざるを得ないです。ぜひシングルのB面曲も聴いてみてほしいですね。


あ、ちなみに私はバーナード・バトラー在籍時の初期が思い入れ深いので、感想は初期の頃までになる予定です。

2-1."The Drowners"

The Drowners ジャケット

お気に入り度
★★★★

Released May 1992

1.The Drowners

2.To The Birds

3.My Insatiable One

1.The Drowners

デビューシングルにして、スウェードとはどういうバンドなのかを端的に表した名曲。スウェードの音楽は、アッハ~ンと裏声出したり喘ぎ声をちょくちょく入れる、気持ち悪さが漏れ出ているしつこいボーカルと、そのボーカルより目立たとうと言わんとばかりに、メロディアスなフレーズを奏でまくるしつこいギターが特徴で、この説明だとまるでダメな中華料理のような音楽性なのですが、これがバンドとして奏でられると、唯一無二の音楽になるんだから、バンド内でミラクルな化学反応が起こっていたんでしょうね。

1stアルバム時代のスウェードは、タブーな事を題材に挑発的な歌詞をバンバン唄っていて物議を醸していたのですが、この曲は近親相姦と同性愛がテーマと言われているとんでもない曲。アウトどころか3アウトな内容でっせ。ボーカルのブレット・アンダーソンはこの時期に「大衆を堕落させたい」とインタビューで言ってたようですが、そういえばロックというのはこういった過激な要素があったよなあと再認識させてくれます。

と言っても、過激な歌詞だけではただのハッタリにしかならないのですが、妖しく粘っこいギターサウンドに、重いベースとミッドテンポで催眠的なドラム、そして独特の浮遊感すら感じるクセの強いボーカルで、スウェード印の妖しい退廃的なサウンドが展開されております。

フロアタムの重苦しいドラムからのギターリフが入るイントロは、一撃必殺といっていいほどの魅力があり、ゆったりとしたテンポで、けばけばしくもドロドロと沈み込んでいくサウンドは、曲名通り「堕ちていく者たち」というヘヴィな音世界が繰り広げられています。改めて素晴らしい曲だなと思う。

知名度を上げるために、歌詞のインパクトがあるこの曲を戦略的に選んだのでしょうが、スウェードの中ではスルメ曲のような認識ですね。結局このデビュー曲が一番好きだという人は結構いるのではないでしょうか。

2.To The Birds

バラード曲なのですが、1stアルバムのようなピアノ基調のバラードとは異なり、ギターがガンガン鳴り響くロックバラード。

ジャカジャカ鳴り響くギターのコード感が気持ちいいです。何気にバーナードさんはこの曲に限らず、ギターのコード弾きがすごく心地良いんですよね。ブレットくんのボーカルも低音から高音までドラマチックに歌っていて、ミュージシャンとしての能力の高さを見せた一曲。

窓辺で待っている彼女と一緒に、ボロボロの自転車で天国へ行くよという歌詞。飛び降りの心中ソングですね。後のシングル「Stay Together」に通ずる世界観です。

3.My Insatiable One

スミス解散後のモリッシーがカバーしたため、B面曲ながら割と知名度が高い一曲。

こちらもメロディアスなギターがぐいぐい来るロックバラードですが、この曲はドラマチックに表現せず、強弱をつけず同じテンションで押し切っているアレンジ。普通もうちょっと静と動を織り交ぜたアレンジに仕上げると思うのですが、そのせいかのっぺりして収まりが悪い印象があります。おそらくそういった印象を狙っていたんでしょう。

この曲もどキツい歌詞でして、エスカレーターでなぶり者にされた彼が死んでしまったという内容なのですが、彼は僕の飽くなき人だった。僕たちはエスカレーターで男色にふけるという歌詞が出てきて、えっ!?となり、しまいには彼は僕のダッチワイフだった。とか出てくる始末。はい、そういう歌でございます。

"instatiable"と"inflatable"で韻を踏んでいるところとかは、ここまで来るとブラックジョークの領域。歌詞の"僕"も"彼"に対しては性的な対象としてしか見ていなかったような節があり、残酷で容赦のない歌詞だなあと感じました。

歌詞はブレット・イーストン・エリスの「Less Than Zero」という小説から影響を受けているというのをどこかで見ましたが、確かにあらすじを見るとそんな感じがします。

目を背けたくなるようなスキャンダラスな歌詞、華やかで煽情的ですらあるギターワークと、初期スウェードの魅力が一番色濃く出たシングルだと思います。このシングルでバンドが注目されたというのも分かりますわ。

2-2."Metal Mickey"

Metal Mickey ジャケット

お気に入り度
★★★★

Released Sep 1992

1.Metal Mickey

2.Where The Pigs Don't Fly

3.He's Dead

1.Metal Mickey

フィードバックからフランジャーのジェットサウンドまで飛び出す印象的なイントロ、荒々しいリフと暴れまわるギターソロと、これはもうギターサウンドが好きなら気に入らざるを得ないカッコいいロック曲。ギターソロに入る前のベースとギターのギャーンと一鳴らしするところの、スイッチが入ったかのようなカッコよさよ。やはりロックはこういう外連味のあるカッコよさをいつまでも忘れないでほしいと、お星さまに祈っています。

前シングルの「The Drowners」が、ボーカルであるブレット・アンダーソンの挑発的な歌詞と歌唱が色濃く出た曲でしたが、この曲はギターであるバーナード・バトラーの荒々しくもメロディアスなギタープレイが前面に出た曲と言えるでしょう。

歌詞はお金や名声のためなら魂や体を売ってしまう女性について。まさにジャケット画像のような、人形みたいになってしまった女性というイメージなのでしょう。割とまだ普通の歌詞だなと思ってしまったのは、スウェードの過激な歌詞に麻痺されてしまっているなと感じてしまいました。タイトルでディズニーに怒られなかったのかとか、歌詞のどこにMetal要素があるのかとか、どうでもいいところが気になってしまいましたが。

注文を付けるとしたら、エンディングがサビの繰り返しでそのままフェードアウトなので、もう一工夫あるとなお良かったですね。「The Drowners」しかり、次シングルの「Animal Nitrate」しかり、フェードアウトで終わらせる曲が多いので、もうちょっとそこは頑張ってほしいなと。今後の曲作りに参考にしてほしいです。昔のバンドに向かって私は何の目的でアドバイスしているのでしょうか。お星さまに問いかけてみます。

2.Where The Pigs Don't Fly

ギターを中心としたバラード曲。ギターバラードならばアコースティックギターで綺麗にしっとりと聞かせたくなるところを、こもっている歪んだギターをメインにアレンジされていて、独特のサイケ感が出た曲になってます。動きのあるベースラインも何気に貢献度高し。

歌詞は不可能だと思われることでも僕は実現してみせるよ、という内容かと思いますが、サイケ感のあるアレンジ故にふわふわした印象の曲なので、なんというか絵空事を聞かされているような気分になる(笑)

最初はちょっと退屈な曲かなと思っていましたが、聴き直してみると魅力が段々分かってきた一曲。

3.He's Dead

想像した事なんてしょせん想像事でしかない。もし彼が死んだなら・・・という歌詞なんですが、つまりのところ、あいつ死んでくれねえかな、という恨みつらみを、イギリス人らしく皮肉な言い回しで表現しております。こう書くとなんか小市民的な内容ですね。絶句してしまったんだけど、彼は僕を自分の息子に似ているとか言っているとか本当に嫌そうな言い回しで、ちょっと笑えてくる。

この曲は演奏隊中心の曲という印象で、ブレットさんの出番は曲の前半で終わってしまいます。残りの後半2分半は演奏隊の長いアウトロを聴くという、なかなか思い切った作り。でもその後半部分がこの曲の聴きどころ。

リズム隊が同じフレーズを繰り返す上に、バーナードさんのアドリブギターが延々と奏でられ、途中からボーカルのコラージュが入ってサイケな雰囲気が出て、最後の方はカオティックなサウンドで終わるという展開。短い時間ながら展開が目まぐるしく変わるところが面白いですね。

最後、妙に素っ頓狂なギターフレーズが入って、唐突に終了するところがお気に入り。困惑というか、なんとも言えない余韻が残ります。

2-3."Animal Nitrate"

Animal Nitrate ジャケット

お気に入り度
★★★

Released Feb 1993

1.Animal Nitrate

2.Painted People

3.The Big Time

1.Animal Nitrate

初期スウェードの代表曲と言えばこの曲になるでしょうね。「The Drowners」の流れを汲む妖しげで退廃的なナンバー。歌詞の内容も家庭内の虐待という、これまたヘビーなテーマ。洋楽は日本語ではない故に歌っている内容がストレートに伝わらないため、ニュートラルな視点で音楽を楽しめるという点が、メリットでもデメリットでもあったりするわけですが、ことスウェードにおいてはメリットであるように思いますね。こんな過激な歌詞を歌う日本のバンドだったら、先入観からおそらく聴こうと思わなかっただろうなと。

虐待による支配と服従というような内容で、"animal"ケダモノのような狂気を感じさせ、ケダモノが死んだ今、君は何に溺れるつもりなんだ?という不穏な歌詞は、虐待の連鎖や影響から逃れることは容易ではないことを示唆しているように感じます。

「The Drowners」がズルズル沈み込む曲ならば、「Animal Nitrate」はアップテンポでカッコいい曲ですね。ギターソロからなだれ込んでいくラストのサビとか本当に興奮してしまいますし、ギターもサウンドだけではなく弾いているフレーズがメロディアスでカッコよすぎますわ。あとラストに入る手拍子が印象的。T.Rex風のグラムロックなアレンジって感じ。

以下URLは、ブリットアワーズというイギリスで開催される祭典でのパフォーマンスライブ。こんな過激な歌詞の「Animal Nitrate」が結構ヒットしたようで、こういう曲も受け入れるなんてイギリスの音楽シーンは懐が深いなあと思ってましたが、このライブでの観客のドン引きぶりを見ると別にそんなことは無かった。

ブレット君のマイクを使ったケツをスパンキングするパフォーマンス、観客の困惑と反応できない様子と、まさに伝説と言っていいほど衝撃的なライブと言えるでしょう。

Suede - Animal Nitrate (Live at The Brits 1993)

2.Painted People

これもアップテンポな一曲で、やはりバーナードの暴れまわるギターが印象的な曲。スウェードはミドルテンポな曲が多いので、こういった勢いがあってライブ映えしそうな曲は意外と印象的。ただ1stアルバムに収録されている「Moving」に曲調が似ているので、たまにどっちがどっちか分からなくなる時がある。ファン失格ですわ。

曲のタイトルから厚化粧とかタトゥーをしている人の歌かと思っていましたが、ピルがすべてを飲み込んだ 君の肌にも僕の肌にもという歌詞から、良くないおクスリにのめり込んでいる人の歌なのかなと思ったり。歌詞全体もおクスリでハイになった、誇大妄想な感じの内容ですし・・・アップテンポな曲になっているのは、そういうハイテンションな心地を表現しているのかもしれない。

ラストの激しいギターサウンドから、バスっと次の曲に切り替わる瞬間が好きだったりします。映画のシーンの移り変わりみたいで、シングル全体が一つの大きな作品になっているように感じてすごく良いんですよね。サブスクで一曲単位で聴くのではなく、シングルで通して聴くからこそ感じるこの感覚、分かってくれる?分かれ。

3.The Big Time

「彼」が脚光を浴びる中、「私」は主役の座から遠のいている。いずれ「君」も脚光を浴びる時が来るだろう。という栄枯盛衰の俳優業界を描いた歌詞の曲。誰も逃れることができない世の習いに対して、諸行無常な侘しさが漂う一曲になっています。

中盤から入ってくるサックスの音色が印象的で、ハードボイルドで哀愁漂う雰囲気がロマンチックです。フランク・シナトラ的というか。「This Hollywood Life」しかりスウェードは、映画や俳優と言えばサックスというイメージがあったのでしょうか。1950~60年代の映画音楽みたいな感じがあります。

ヨーロッパ的な憂いをたたえる雰囲気で、後の2ndアルバム『Dog Man Star』に繋がっていく、深みのある曲ですね。

2-4."So Young"

So Young ジャケット

お気に入り度
★★★

Released May 1993

1.So Young

2.Dolly

3.High Rising

1.So Young

曲の初っ端から「ウィキャ~ン」とひっくり返った声で叫ばれて、初めて聴いた時は笑ってしまいました。1stアルバム1曲目としても収録されているので、1stアルバムがスウェード初視聴という人はさぞ面食らったかと思います。キモさとカッコよさの境目を行ったり来たりしているこのボーカルによって、私も先制パンチを食らわされました。このバンドはただ者ではないぞと。

若さとドラッグの歌であると言われたりしますが、私としては青春とその喪失という歌なのかなと考えてまして、ドラゴンを追いかけようぜとか、ラリパッパな内容に見えますが、荒唐無稽なことでも実現させてみよう!みたいな前向きな内容だったのでは。ただ雪に染まった~という歌詞から、そういった向こう見ずな若さが失われていく描写もあり、大人になっていく時の苦悩やもがきを表現している歌であるように思います。

楽曲自体もそんな移り変わりを描いたような曲になっていて、これまでのシングルのようなバンドのみで演奏された勢い一発の曲ではなく、ピアノやオルガンといったバンド外の音といった一工夫入れたアレンジになっていて、スウェード自身もまた「若すぎた」時代が終わり、変化の最中であったことを示している曲ではないでしょうか。

2.Dolly

前曲がそんな変化を感じさせる曲だったため、これまでのスウェードを踏襲したようなバンドのみでアレンジされたこの曲は、逆に違和感すら感じてしまいますね。

間奏の部分もギターソロが無く、マット・オズマンのベースがメインという珍しい構成。その結果派手さがあまり無い、良くも悪くもB面らしい曲になったなと。

僕のお人形ちゃんを見てくれよ。髪なんて本物みたいだろ。というやべぇ奴の歌詞。お人形さんごっこしてる内容なんでしょうか。僕のかわいい人形にアルファベットを教えた。ABCは役に立つんだから。という歌詞は、スウェードだとすごく性的な意味合いを持ってそうな気がしてくる。そう考えると一気にどキツイ歌詞になってくるぞ(笑)

3.High Rising

ピアノのアレンジが印象的な、静謐でクラシック的な神聖さすら感じる曲で、1stアルバムに入っていても違和感が無い一曲。これは隠れた良曲ですね。

「High Rising」という単語は、太陽が昇る的な意味なのかと私は思ってましたが、高層ビルという意味なんですね。知らなかった・・・スウェードと言うかブレットさんはPVや歌詞を見る限り、ビルやアパートという高い建築物に対して、退廃的で人間味の無いものというイメージで表現しているような気がします。

退屈で無機質な日常を送っている中、そんな日常を変えてくれる「彼女」を待ちわびているという歌詞で、ラストの僕を老い込ませないでほしいと歌う箇所は、光が差し込んだかのような展開で、その願いが叶ってほしい祈りのような雰囲気があります。実は太陽が昇る的な意味合いもあるんじゃないでしょうか。

ただ待ちわびているだけで受け身な姿勢なんですが、それが救いを求めているようで切実な印象を受けます。

2-5."Stay Together"

Stay Together ジャケット

お気に入り度
★★★★★

Released Feb 1994

1.Stay Together

2.The Living Dead

3.My Dark Star

4.Stay Together (long version)

1.Stay Together

スウェードで一番好きな曲となると、私はやはりこの曲。バーナードくんとの確執を思い出すからか、バンド側がめちゃくちゃ嫌っている曲として有名だけど、間違いなく名曲です。次のアルバム『Dog Man Star』に収録されなかったけど、それ故に特別な立ち位置の曲になっているとひいき目に思います。オアシスの「Whatever」みたいな感じ。

スウェードのナルシズムが全開に出た曲で、核汚染された空の下で高層ビルから心中しようという歌詞で、PVも思いっきりそういった内容です。バラード曲だと控えめがちだったバーナードくんのギターも切ない旋律をガンガン奏でています。まだこの時点ではアルバム1枚しか出していないバンドなのに、ここまで耽美かつ憂鬱で、退廃的な美しさと激しさを表現した曲を出せるというのは、本当にすごいバンドだと思う。

この歌詞を書いたブレットくんは後に「ドラマチックすぎる」とあまり良い評価をしていない。おそらく発表された1994年当時は、核汚染された世界というものは現実感が無さ過ぎると思っていたのかもしれない。けれど17年の時を経て、東北大震災が起きたここ日本においては、否が応にも痛切に響いてしまう。

震災後しばらくの間、地震による混乱や原子炉融解の恐怖が入り乱れた非日常の光景を目の当たりにした、そういった時期だったからこそ私にとってはどんな曲よりもリアルに響いてました。震災後の混乱した状況の中でこの曲を聴き、歌詞の世界に同化していくように感じたのを覚えています。ナルシスティックに自己陶酔しないとやってられない気分だったんでしょうね。

昔自分で訳した歌詞をメモに残していたので、せっかくだから載せてみる。正しい訳かどうかは保証しない(笑)

今夜、僕の家に来てほしい
核汚染された空の下で僕たちは一緒になれる
そして毒の雨の中で僕たちは踊る
少しの間だけど天国にいるような気分になるんだ

一緒にいよう
この日々は僕たちのもの
僕と心中しないか?
高層ビルの下の二つの心となって

今夜、僕の腕の中に来てほしい
電灯の下で君と僕は一緒になれる
そして汚染された空の下で彼女は踊る
そこの高速道路のそばで少しの間だけ一緒にいられるんだ

一緒にいよう
一緒にいてほしいんだ(彼はもう限界だった)
僕と心中しないか?
高層ビルの下の二つの心となって

高層ビルには時限爆弾が時を刻み
郊外の人達は憂鬱な夢を見る
天国で僕が君を見つけに行くのだろうか
それとも君が僕を迎えに来てくれるのだろうか、と

僕の腕の中に来てほしい、迷ってしまうから
ちょうど午年のときに君と僕は一緒になれる
核汚染された夜の中、一つになろう
そうすれば僕たちはより近くに感じられて
空を転がり回れるから

一緒にいよう
この日々は僕たちのもの
一緒にいよう
高層ビルの下の二つの心となって

一緒にいよう
この壊れた愛の中で
一緒にいよう
高層ビルの下の二つの心となって

2.The Living Dead

ブレットくんのボーカルと、バーナードくんのギターのみのアコースティックバラード。美しい旋律と激しいコードワークによって、アコギでもしっかりドラマティックな曲になっているのがさすがですね。

お金を全てドラッグにつぎ込むような、薬物中毒で破滅へ向かっている男に別れを告げる歌詞で、けどあなたは一人でどうするつもりなの?私はもう行かなければいけないのにと、ダメ男と別れるにも関わらず、その男の身を案じる優しさが悲しい内容ですね。

そんな悲劇的な歌詞だからなのか、アコギバラードにありがちな繊細でうっとりさせる雰囲気ではなく、どことなく客観的でクールな印象の曲です。トラッドフォークみたい。

3.My Dark Star

スウェードのシングルB面での傑作と言えば、まずこの曲と言っても過言ではないほど、スウェードファンの中ではもはや隠れてすらいない名曲です。

「My Dark Star」というタイトルからなのか、サビの流れ星を表現したようなギターワークが印象的。イントロのピアノから静かに始まり、徐々に盛り上がりを見せてから、ラストのサビで最高の盛り上がりでドラマティックに締める曲展開が素晴らしいです。個人的にラストのサビで出てくるギターフレーズが一番の聴きどころですね。

最初断片的に聞き取れる歌詞から、インドからやって来た彼女が、今はしんどい毎日だけど報われる未来を信じて、アタイへこたれへん!みたいな歌詞かと思っていましたが、じっくり歌詞を読むと結構観念的で難しくシリアスな内容っぽい感じです。

戦争や支配の歴史が根深いイギリスに対しての嫌悪感を表した歌詞なのかな。インドやアルゼンチンという、イギリスとの争いの歴史がある国から、イギリスのみんなが待ち望んでいたイエスキリストのような人物がやってくるって内容はなかなか意味深。世界を変えるのは内からでは無く外からやってくるみたいな感じでしょうか。なかなか解釈が難しい。

この曲が出た1994年は、国粋主義の側面もあったブリットポップの流行が起こり始めた時期でしたが、そんな中こんな反イギリス的な内容を書いたのは興味深いですね。

4.Stay Together (long version)

1曲目の「Stay Together」ではラストでフェードアウトして曲が終了しましたが、こちらはフェードアウトせず最後まで演奏しきったバージョン。このシングルでの最大の聴きどころはこの長尺バージョンにあると言っても良いほど。

フェードアウト後の後半部分はギターを中心としたインストになりまして、そのギタープレイが狂おしさと哀しさが入り混じった激情的な演奏で、個人的には90年代の「天国への階段」と言っていいほどの圧倒的なプレイを聞かせてくれます。スウェードで数々の印象的なギターを弾いてきたバーナード・バトラー最高の名演だと思います。

「Stay Together」自体がライブでもめったに演奏されないし、こんな凄いバージョンがこのシングルのB面のみでしか聴けない状況が長いこと続いていたので、知る人ぞ知る名トラック扱いになってしまったのが残念。

現在手に入る2枚組の『Dog Man Star』deluxe盤に、このバージョンが収められていますが、ラストのピアノとうめき声のようなギター部分がカットされていたという片手落ち。本当に口惜しくてならない。この曲が好きな自分にとっては、カットされた7分30秒バージョンは偽物で、シングルに入っていた8分30秒バージョンこそが真の「Stay Together」だと声高に主張させてもらいます。

2-6."We Are The Pigs"

We Are The Pigs ジャケット

お気に入り度
★★★★☆

Released Sep 1994

1.We Are The Pigs

2.Killing Of A Flash Boy

3.Whipsnade

1.We Are The Pigs

ダークで終末感のある雰囲気で、アルバム『Dog Man Star』の先行シングルにふさわしい一曲。全体的にエコーやリバーブががっつり効いたサウンドになっていて、それが独特の密室感や暗闇っぽい印象を受けます。

相変わらずギターは素晴らしいので、どうやって褒めたらいいかだんだん語彙が無くなってきました(苦笑)。この曲においては、ギターソロ前のスライド音?が燃えさかる炎を表現しているようで本当かっこいいですね。ギターソロも救いのない世界観を演出していて、さすがという感じ。いやもうこれはぜひ聴いてくださいとしか言えないっすわ。

歌詞はPVの内容そのまんまの、ディストピアで破滅的な世界を描いたもので、兵隊や警察といった存在が自分たちを最前線のスターだと勘違いしながら、暴力で人々を抑圧していく様を豚だと思い切り断罪しております。サビ後のホーンのサウンドは兵隊の行進を表したサウンドなのかも。

でもごまかしでは誰も救えやしないから 火だるまになる人たちを眺め続けるだけとあるように、兵隊だけでなく、そんな暴力を受ける光景を目の当たりにしながらも、何もせず安全圏に引きこもって傍観しているだけの人たちのことも描いており、豚というのはそういった権力に従順で無関心な人たちを指しているのかもしれないと今思いました。そう考えると攻撃的かつ皮肉な歌詞ですね。

サビ前の「アッセイ」と裏返った声で歌われるとこは、盆踊りの掛け声みたいで個人的にちょっと面白いです。よいしょーどっこいしょー。

2.Killing Of A Flash Boy

「My Dark Star」と並ぶスウェードの名B面曲。ダンサンブルでノリやすく、ライブ映えする一曲ですね。

サビでのギターは珍しくコードワーク主体のプレイを奏でていて、横ノリ感が気持ちいいっす。これもまた珍しくボンゴも入っていたりと、リズミカルなアレンジも施していて、「踊る」をテーマに曲を作り上げた印象。享楽的な楽曲という感じです。スキャットと弾きまくりギターが気持ちいいアウトロが私大好きでございます。

抽象的ではっきりしないけど、ど派手で危険な匂いのする男に人々は惹かれているけど、そいつに痛い目に合わされるのがオチだというような内容かな?なんとなくヒトラーへの熱狂から独裁による被害を受ける顛末を思い浮かびました。

今でもネットでよく見かけるわな。極端な暴言を吐く攻撃的な奴が何故か一定数の信者を作っているような、炎上目的の迷惑バカみたいなやつ。そういうやつに影響されて、周りも暴力的になっていくというような・・・洗脳というか、誘導される恐ろしさを描いているようにも思います。

3.Whipsnade

夜を想起させるクールな雰囲気の曲で、揺れる音を奏でるギターやエフェクト加工されたボーカルといった音処理が、人工的でスタイリッシュな感じを受けます。そんな点から、後の『Coming Up』時代でのスウェードに繋がりそうな一曲。

この曲はドラムが面白く、裏拍を強調したレゲエっぽいリズムで、ドラムサウンドもチューニングが高めにされていてレゲエみたい。そのためか抑制されたドラム演奏になっていて、そこがクールな雰囲気を与えているような気がします。前述の音処理と合わせて、スウェード流レゲエ/ダブの曲かもしれない。

この曲も歌詞は抽象的で難しいな・・・権力や暴力による抑圧に対しての反抗なのかな。若干前向きな内容もあるけど、もしかしたら皮肉として表現しているかもしれない。ちなみに「Whipsnade」はイギリスの地名らしいです。日本に置き換えたら「竹ノ塚」というタイトルみたいなものでしょうが、なぜそのタイトルで権力や暴力による抑圧に関する歌詞にしたのか。Whipsnadeの人たちは困惑してそう。

このシングルでは、どの曲も暴力や権力といったものにフォーカスを当てた歌詞になっていて、明確なコンセプトを持って作られたシングルだと思いました。サウンド面や歌詞両方の点において、『Dog Man Star』前夜という立ち位置のシングルですね。