Dead Flowers

The Smiths シングル感想

1.序

80年代にイギリスで人気を博したロックバンドThe Smiths。このバンドが後に与えた影響というのは数多く、例えばボーカルのモリッシーが描く内向的な弱者にスポットを当てた衝撃的な歌詞や、ギターのジョニー・マーが作ったシンプルでポップなメロディといった点が主に挙げられるでしょう。

しかし私はスミスの偉大な点の1つとして、シングルというフォーマットを復権させたことだと思う。 それまでシングルというものは、あくまでアルバムのプロモーション用といった具合にあまり重要視されていなかったのだが、スミスの場合はシングルに対して妥協なく製作され、シングルならではの独自の魅力があった。


その独自の魅力とは、まずはやはりB面曲のクオリティの高さでしょう。B面曲は普通リミックスや実験的な曲で終始することが多く、あまりクオリティの高くない曲がほとんどでした。 しかしスミスはそういったリミックスなどにお茶を濁さず、アルバム曲やA面曲に負けず劣らずの新曲をどんどんB面曲として発表していました。

そのクオリティの高さを証明するものとして、スミスの活動期間内に2枚のシングルコンピレーションアルバム(『Hatful Of Hollow』『World Won’t Listen』)が発売され、どちらもオリジナルアルバムに負けないクオリティを持つところから感じることができます。

そして忘れてはならないのが、統一された世界観を持つジャケットでしょう。 昔の映画の1シーンなどがモノトーンに映っているシンプルなジャケットですが、ノスタルジックな雰囲気を持っており、センスが良くてかっこいいです。

このようなスミスのシングルに対する姿勢というものは、後生に大きな影響を与えていて、スミス解散後に活躍したOasisやSuedeがB面曲にクオリティの高い新曲を収録していたのは間違いなくスミスの影響であっただろうし、Bell & Sebastianのモノトーンのジャケットも、スミスの影響を感じることができます。


シングルをまとめたアルバム『Singles Box』はこういったスミスの美意識や魅力にあふれたシングルに対して、改めて敬意を表して発売されたものだと思う。4,50分も続くアルバムとは違い、10分程度で終わってしまうシングルですが、それゆえに短編小説を読むような、アルバムとは違った魅力があるというのを、私は「Singles Box」を聴いて感じました。

音楽をインターネットを通じて配信するという販売形式が確立されつつある昨今。このようなシングルならではの楽しみを提供してくれるミュージシャンはもういなくなってしまうのかなあ。


Singles Box(amazon)

2-1."Hand In Glove"

Hand In Glove ジャケット

お気に入り度
★★★★

Released May 1983

1.Hand In Glove

2.Handsome Devil (Live)

1.Hand In Glove

記念すべきスミスのデビューシングル。シングルにしては割と暗い曲調のため、デビューシングルとしてはどうなんだ?と思うところもありましたが、1stアルバム『The Smiths』の曲とかと比べたら結構明るい部類に入るので、デビューシングルとしては適切なチョイスだったのかなと最近では思うようになっています。

デビュー曲ながら、モリッシーの余計な力を入れないヨーデル風ボーカルや、明るいんだか暗いんだかよく分からんメロディーなど、スミスの個性と言える部分が早くも発揮されています。

個人的にアンディ・ルークのベースが素晴らしいです。この曲のギターは最後までバッキングに徹しているため、アンディのベースが曲を引っ張っている印象。彼の硬質な音のベースプレイによって曲に起伏が生まれており、一聴してみると単調な曲ながら意外に飽きない曲になっているのではないでしょうか。

スミスはどうしてもモリッシーとギターのジョニー・マーを中心に語られがちですが、「This Charming Man」や「There Is A Light That Never Goes Out」などは彼のベースあってこその名曲だったと私は思います。

歌詞は「周りが何と言おうと、これが僕たちの愛だ。気にするな!」といった内容。モリッシーにしては割とまともで情熱的な愛の歌って感じです。ただラストで僕は自分の運命を良く分かっている。君にはもう二度と会えないんだろうと悲劇的な結末がほのめかされていて、ラストの所でボーカルやハーモニカが入らない小節で不穏な雰囲気を感じてしまい、ちょっとドキッとしてしまいます。

2.Handsome Devil (Live)

スミスにしては珍しいダークな雰囲気漂う曲。ライブ録音のため音が安定していない感じなんですが、こういった曲にはフィットしているのも事実です。

ボーカルもバックの演奏も荒々しく、繊細極まりない初期のスミスにしては異色の曲です。スミスの曲を聴いて「カッコいい」という感想はあまり湧かないんですが、この曲に関しては単純に「カッコいい」と思えます。この曲のスタジオ録音バージョンが発表されていないのは、こういった雰囲気を出せるのはライヴだけであり、スタジオ録音だとこの曲の魅力を損ねてしまうと考えていたのかもしれません。

歌詞は純粋無垢な少年を飲み込もうとする人の話。「This Charming Man」と世界観が似ていて、「This Charming Man」はコメディ的な要素も感じるのですが、この曲は本当に危ない感じの世界観って感じで、その辺の対比が面白かったり。

2-2."This Charming Man"

This Charming Man ジャケット

お気に入り度
★★★☆

Released Nov 1983

1.This Charming Man

2.Accept Yourself

3.Wonderful Woman

4.Jeane

1.This Charming Man

スミスの出世作であり、初期を代表する名曲の一つ。インパクトのあるイントロのギター。ポップなメロディ。そして3分未満でスパッと終わらせる簡潔さ。まさにポップソングのお手本のような曲です。

歌詞は年上の男に弄ばれるといった具合の内容ですが、曲調からあまり悲惨な感じはなく、むしろコメディ的で微笑ましいようなニュアンスも見受けられます。しかし一方で同性愛の雰囲気漂うアブノーマルな世界もあり、捕らえ所の無い世界観です。

この曲の聴きどころは、A jumped-up pantry boy ~当りのベースとギターの絡みだと思う。上っていくようなベースにギターが追随し、ベースが上りきったところでギターのストロークが入る一連の流れはいつ聴いても興奮させられます。

そういえば、2ちゃんねるで外に出かけたくないときの言い訳として「出かけたいけど、着ていく服が無い」。というお決まりのフレーズがあるのですが、実は元ネタはこの曲だったりします。

2.Accept Yourself

明るくパンキッシュな雰囲気の曲。というか「This Charming Man」にしてもそうなんですが、このシングルは明るい曲が多く、ポジティブな感じさえ見受けられ、スミスのシングルとして異端だなあと感じます。そんな中相変わらずモリッシーのボーカルはいつも通り平坦な感じで安心したり。

歌詞はタイトル通り、いつ自分自身を受け入れるんだい?という、「戦わなきゃ、現実と。」というような内容。計画を練ったけど無駄に終わった。時代は今僕を追いやろうとしているという、情けない歌詞がいかにもスミス的。

明るい曲調なのに歌詞はネガティブだなあと最初は思っていたのですが、もしかするとモリッシーのひねくれた応援ソングなのかもしれないですね。

3.Wonderful Woman

明るい雰囲気が続いてから一転、陰鬱で寂しげな曲に。こういう曲が来るとテンションが上がる私はもうスミス病なのかも。けど私にとってはこういう陰りのある曲の方がやっぱりスミスらしいと思います。

歌詞は女性から逃げ出してしまう男の内容で、ハーモニカの寂寥感やため息のようにoh...を繰り返すボーカルによって、そういった自分に嫌悪または後悔しているように聴こえます。そういえば「Accept Yourself」で他の人は愛を克服した。けど僕は逃げ出した。とありますが、この曲の歌詞のことを指していたのかなと推測してみたり。

歌詞に出てくる女性も夢見がちで残酷という風に描かれているため、「Wonderful Woman」というタイトルも皮肉なんだろうなあ。

4.Jeane

「Accept Yourself」以上にパンキッシュな一曲。単調な曲ながら、4拍子のリズムが気持ちいいです。ていうか、こういう曲を1stアルバムに入れておけば、途中でダレること無く聴けるのにね。関係ない話ですが。

スミスの中でも屈指のノリの良い曲なんですが、そんな曲でもモリッシーは平坦ボーカルとネガティブな歌詞を乗せていて、彼の確固たるブレなさにある種の安堵感すら感じます。

歌詞は貧困に苦しむカップルの話で、もう幸せなんかなれやしないと歌うかなりネガティブな内容。僕らはやってみたけど、失敗したんだと何度も繰り返すのが印象的で、努力しても報われない社会構造を暗に批判しているような気がします。当時のイギリスでは貧しい人はサッカー選手かロックスターにならない限り、金持ちになれなかったと言われていますから。

2-3."What Difference Does It Make?"

What Difference Does It Make? ジャケット

お気に入り度
★★★★

Released Jan 1984

1.What Difference Does It Make?

2.Back To The Old House

3.These Things Take Time

1.What Difference Does It Make?

初期スミスにしては珍しくギタートラックを多く重ねていて、中盤からSEも入ったりとなかなかの意欲作といえる一曲。リズムも割とダンサンブルで、地味な作風である初期スミスの中ではかなり印象的な曲です。重厚なギターサウンドとダンサンブルなリズムという点から、『Meat Is Murder』期のサウンドを先がけた曲と言えるかもしれません。

多くのギターサウンドが現れるラスト1分が聴きどころで、エレキリードとエレキバッキング、アコギバッキングなどの掛け合いから生まれる、スキのない鉄壁なサウンドがカッコいいです。

歌詞は愛する人に自分の秘密を打ち明けたが、その結果相手に距離を置かれてしまったというもの。いわゆるはしごを外されたという状態です。

秘密を打ち明けたからといって、自分自身が何か変わったわけではないにも関わらず、何故距離を置かれてしまうんだという疑問は、理屈的にはすごく正しいことなんですけどね。人間関係の難しさを思い知らされる歌詞です。何の違いがあると言うんだ?と繰り返し歌われるのが悲壮感あります。

そんな人間関係が壊れてしまっている状況の中でも、自分は未だに相手を愛し続けているという・・・ノリが良い曲の割に救いがない歌詞ですね。

2.Back To The Old House

このシングルのB面両方とも、『Hatful Of Hollow』のライブバージョンが優れたアレンジのため、シングルのスタジオバージョンがどうも割を食っている感があります。特にこの曲の場合、アコースティックギター1本でリアレンジした『Hatful Of Hollow』バージョンがすごぶる人気が高く、スタジオバージョンの存在感がほぼ消え失せているのではと思えるくらいです。

そんなかわいそうな立ち位置のスタジオバージョンですが、こちらもなかなかいい感じですよ。ベースとドラムがゆったりとしたリズムを作り上げていて、ホッと安心できるような心地に仕上がっています。歌詞のように、昔住んでいた家の情景を懐かしむような雰囲気が出ていると思います。

嫌なこともたくさんあったけど、思い出がたくさんつまった昔の家に帰りたい、けど帰りたくないと相反する感情が描かれる歌詞は、故郷を離れた人にはすごく共感できるものではないでしょうか。思春期向けと言われがちなスミスにしては珍しく、年齢を重ねるほど身に染みてくるようなノスタルジックな曲だと思います。

3.These Things Take Time

アップテンポでロックンロールな一曲。この曲について言及しているのをほとんど見たことがないんですが、あまり人気がないのでしょうか。個人的にかなり好きな曲なのに。サビ終わりにブレイクする箇所とかカッコいいじゃないですか。

この曲はサビのギターフレーズがユニークですね。ここだけ音響的なフレーズになっていて、時の流れの速さを表現しているようであり、また歌詞の青春の真っ只中、きみは僕を置いていこうとしている。きみは僕を捨て去って行くという、周りに置いていかれてしまった感覚を表現しているようでもあります。

詩的で抽象的な歌詞なのですが、内容は大切な人に自分が見捨てられてしまうというものですかね。見捨てられる原因も自分自身にあるということをはっきり自覚しているのが辛い。きみの部屋で僕らが過ごした時間は、この世で生きとし生けるどんなものよりも大切なことだったんだとささやかな幸せをかみしめていたのに・・・と考えるとなかなか絶望的な歌詞かもしれない。

3曲レビューしてから思ったのですが、ダンサンブルなリズムの1曲目、ゆったりとしたノリの2曲目、ロックンロールナンバーの3曲目と、このシングルは昔のクラブで映えそうな曲が並んでいることから、実はクラブやダンスをコンセプトとしたシングルなのかもしれないですね。

2-4."Heaven Knows I'm Miserable Now"

Heaven Knows I'm Miserable Now ジャケット

お気に入り度
★★★

Released May 1984

1.Heaven Knows I'm Miserable Now

2.Girl Afraid

3.Suffer Little Children

1.Heaven Knows I'm Miserable Now

モリッシーならではの嗜虐的なニート賛歌。過労死という言葉が日常化している狂った状況のこの日本で、今一番ストレートに響く歌詞ではないでしょうか。

僕が生きていようが死んでいようがどうでもいい人々なんかのために、僕の人生の価値ある時間をどうして捧げなければならないのだろう。「家に引きこもりすぎだ」と彼女は言った。当然僕は逃げ出した。

と、歌詞全部引用したいほど、切れ味抜群なフレーズの数々。個人的にスミス全曲の中で一番好きな歌詞です。ここまで来ると悲劇的というより喜劇的に見えてくるし、ある程度そういった狙いはあったのではと思う。

曲としてはギターのコード感が独特。変わったチューニングでもしてるんでしょうか。曲終わりのコード進行も、んっ?と思う妙な感触があります。サビ前のカッティングは職人技感ありますが、全体的に地味な曲調ながら妙に引っ掛かりのある曲ですね。一言で言うと不思議な響きの曲。

2.Girl Afraid

アルペジオからドラム一発のイントロからリフでぐいぐい引っ張っていくアップテンポな一曲。なんかどこかで聴いたことあるなと思ったら、「Sweet And Tender Hooligan」と曲の構造が似てる気がする。いや、こっちの方が先なのですけど。

「Sweet And Tender Hooligan」は歪んだギターのコードワークでしたが、この曲はリフがありつつもクリーンギターでのアルペジオの存在感も高く、初期と後期のスミスの音楽性による変化というのは、この2曲で比較すると分かりやすいかもしれないです。

歌詞は男女の価値観による相違を描いたもので、それぞれの視点から同じ光景を描いた歌詞が面白いです。考え方が全く異なるカップルの2人だけど、振る舞いや結論が全く同じだったという点では、お似合いのカップルだったのかもしれない。

3.Suffer Little Children

1stアルバム『The Smiths』からのリカット曲。アルペジオを中心とした控えめな演奏と単調なボーカルが淡々と続くという、いかにもこの時期ならではの曲といった感じ。

まあとにかくこの曲は歌詞に尽きるという曲で、実際にあった幼児誘拐連続殺人事件がテーマという凄まじい一曲。気軽に歌詞も引用できないくらいの重い内容です。「Panic」や「The Queen Is Dead」など物議を醸した曲は他にもありましたが、テーマがテーマなだけにこの曲が一番反感を買っていたようです。あまりにもセンシティブな内容だからなあ。

正直こういうテーマで曲を作る必要があったのか難しいところではあるのですが、反感を恐れず切り込んでいくパンク精神による一曲だったのかもしれません。

このシングルはどの曲も歌詞の存在感が大きく、モリッシーがメインのシングルという趣きがあります。内向的で社会に馴染めない1曲目、作詞の構築力の高さを示した2曲目、タブーな内容にも意見を表明する3曲目と、作詞家モリッシーがどれほど特異なキャラクターであるかを、一番把握できるシングルだと思う。

2-5."William, It Was Really Nothing"

William, It Was Really Nothing ジャケット

お気に入り度
★★★★★

Released Aug 1984

1.William, It Was Really Nothing

2.How Soon Is Now?

3.Please, Please, Please, Let Me Get What I Want

1.William, It Was Really Nothing

スミスのポップネスが炸裂した「William, It Was Really Nothing」、サイケデリックな実験ナンバー「How Soon Is Now?」、スミスの繊細さが頂点に達した「Please, Please, Please, Let Me Get What I Want」と、まさにシングルの理想型と言っていいほどの隙がない構成となっており、間違いなくスミスのベストシングルの1つと言って良いでしょう。スミスのB面曲はレベルが高いと言われますが、その評価を決定づけたのはこのシングルだったのではないでしょうか。

B面2曲とも後にスミスの代表曲となったが故に、結果的にA面のこの曲が一番地味な立ち位置となっていますが、曲自体はスミスの魅力あふれた2分ちょいの簡潔なポップソングとなっています。曲調は割とさわやかで、モリッシー以外が歌えばさぞかし清涼感のある曲になっていたでしょうね。

そうならないところがスミスの魅力な訳で、その要因のモリッシーは相変わらず卑屈な感じの歌詞を書いてます。「私と結婚してくれない?」「指輪を買ってくれても良いわ」 彼女はそれ以外興味が無いんだ、と女性の現実的な考えを非難し、ウィリアム、どうってこと無かったね。君の人生は、と、そんな彼女と一緒になろうとするウィリアムも退屈でつまらない人間だと非難。さわやかそうな曲によくこんな攻撃的な歌詞をつけたなと思う。相変わらず同性愛とも取れるような歌詞ですし。

演奏的はギターのアルペジオが良いですね。ボーカルの合間合間に入れられていて、それが曲を盛り上げたり、モリッシーの歌詞の攻撃性を際出せたりする効果を生んでおり、ギターはあくまでも伴奏だと言うジョニー・マーの姿勢がプレイに反映されていると感じます。

2.How Soon Is Now?

曲自体の感想は「How Soon Is Now?」のシングルの方に譲るとして、今回は7" editと呼ばれるショートバージョンについて言及していきます。「Singles Box」ではこの位置にショートバージョンが収録されていましたので。

ショートバージョンは後半部分がまるごとカットされていて、3分半くらいの長さとなっています。通常バージョンを聞き慣れていると、後半のインスト中心の部分が無いまま終わってしまうのに違和感を感じるかと。ただ個人的には通常バージョンにあった冗長さが無くなり、曲の魅力がストレートに伝わりやすくなったと思います。むしろ私はこっちの方が好みかもしれない。私は簡潔さこそがスミスの大きな魅力の1つだと思っているので。

3.Please, Please, Please, Let Me Get What I Want

ボーカルとアコースティックギター、マンドリンだけで、2分弱の短い曲。こんな条件でここまで感動的に美しく作り上げられるミュージシャンは果たしてどれくらいいるのでしょうか。B面曲ながらスミスの中で1、2を争うほどの人気曲であり、10分以上とかの長尺な曲がバカみたいに思えるほど、簡潔ながら広がりのある曲です。

「どうか、どうか望みのものをお与えください」と懇願する理由がアコギをバックに淡々と歌われるのですが、自分の不幸な人生は善人が悪人になってしまうくらいだ。 長い間夢なんて無かった 一生に一度だけでも良い、望みのものをお与えください。その願いは初めてのことだから、とひねくれた言い回しで歌うところがまた切実でリアルに感じます。

そしてラストのアコギとマンドリンの悲しくも美しいソロが奏でられ、余韻を残したまま終わっていく・・・後に出たシングルコンピレーションアルバム『Hatful Of Hollow』でも、この曲がラストに収められていて、まさにラストにふさわしい曲と言えるでしょう。

2-6."How Soon Is Now?"

How Soon Is Now ジャケット

お気に入り度
★★★★

Released Feb 1985

1.How Soon Is Now?

2.Well I Wonder

3.Oscillate Wildly

1.How Soon Is Now?

前シングルでB面曲ながら人気が出たため再度A面曲としてシングルで発売されるという異例の曲。結局オリジナルアルバムには収録されなかった曲なのに、スミスの中で一二を争うほどの有名曲なんだから、本当に人気があったんだなあと感じる。

曲中ずっと鳴り続けるトレモロギターが印象的な一曲で、ギターのトレモロエフェクトとは何ぞやという時に、今でも代表例として取り上げられるほど。

とまあこのようにエフェクティブな音が目立つ曲で、トラディショナルな音楽性のスミスにしてみては、かなりの異色作という立ち位置。そこまでメロディアスな曲でも無いのに、なんでここまで人気あるのだろうかと思うぐらい。80年代はこういったエフェクティブなサウンドが流行っている時代だったので、そんな時代の流れにマッチしたため、インディーロック好き以外の層にも訴えかけるものがあったのかなと推測してみたり。

モリッシーの歌詞も「Heaven Knows I'm Miserable Now」に並ぶほど冴え渡っていて、僕だって人間だ。他の皆のように愛されたいんだ。と切望するも、その気ならクラブがある。君を愛してくれる人に出会えるかもしれない。行ってみても結局独りで突っ立っていて、独りで立ち去って、独りで家に帰って泣いて、そして死にたくなるんだ。今に叶うと言うけれど、それって正確にはいつのことなんだ?見てくれよ、僕はもう待ちくたびれてる。希望なんてすっかり無くなってしまったと絶望のズンドコに叩き落としてくれます。

孤独という内容を歌うのは古今東西数あれど、モリッシーほどリアリティや説得力がある描写を書ける作詞家はなかなかいないだろうなと感じる内容ですね。内気な人が経験したであろうトラウマを想起させてしまうような見事な歌詞です。

実際この曲がクラブで流されたら、どういう気持ちで聴いたら良いんだろうかと思う。クラブの楽しい雰囲気に馴染めない陰キャどもは帰りやがれという、DJからの恐ろしいメッセージかもしれない(笑)。

2.Well I Wonder

アコースティックギターが切なく響くバラード。後に『Meat Is Murder』にも収録されました。初期スミスのような淡々とした演奏なんですが、アコギの明瞭な響きや音を重ねたギター、何気にリズミカルなフレーズのリズム隊、雨音のサウンドプロダクションという要素が、シンプルながらも地味にはならないよう演出できているように思います。

どうか僕のことを覚えていてほしいと何度も哀願する歌は切なく聴こえ、弱弱しいファルセットと雨音が聴こえるラストは、今にも消え入りそうなくらい儚い雰囲気を帯びています。みっともないほどの不格好な歌ですが、だからこそ心に響く曲だなと感じます。

3.Oscillate Wildly

スミスはモリッシーのボーカルあってこそだと思いますが、この曲のようにインスト曲もあったりします。こういった変わり種はB面ならでは。ドラムやギターが無い曲があるんだから、ボーカルが無い曲があっても良い訳で。歌手ではなくバンドだからできることでしょう。

ピアノやキーボードが全体通して奏でられ、コード感がしっかりしている分、インストながらメロディアスで聴きやすい曲です。その分ギターはバックに徹しているアレンジになってます。

下手にメロディを奏でるリード楽器を入れなかったことで、安っぽくならずに聴ける曲ですね。

2-7."Shakespeare's Sister"

Shakespeare's Sister ジャケット

お気に入り度
★★★★☆

Released Mar 1985

1.Shakespeare's Sister

2.What She Said

3.Stretch Out And Wait

1.Shakespeare's Sister

2ndアルバム『Meat Is Murder』の頃は、モリッシーより演奏隊3人の色が強く出た時期で、ハードな音色でドライブ感のある特徴の曲が多いです。この曲もその特徴が色濃く出た、『Meat Is Murder』期を代表する1曲となっています。

ブギウギテイストなピアノが入ったり、トレモロギターもあったりと、50年代ロックンロールといった趣の曲です。2分ちょいであっさり終わるところは、まさにスミスといった簡潔具合で素晴らしい。個人的にスミスベスト5に入るくらい好きな曲。

抽象的な歌詞なのでコレというイメージがしにくいですが、反体制的な歌詞でもあり、若者特有の破滅的な姿勢の歌詞でもありますね。アコースティックギターを持っていれば、プロテストシンガーだと思ってたと、皮肉を入れるのを忘れないのはモリッシーらしいというか。

疾走感が上がるサビを始め、盛り上がるというか、生き急いでいるという感じの曲ですね。間奏終わりのギターストローク、最後のサビ前にある文字を詰め込んだ歌詞とか、じっくり聞き返してみると、短い曲ながらそういった感じを演出する細やかなアレンジがなされていることに気づきます。イントロとアウトロにある妙なサウンド(ギターのフィードバック?)は歌詞にある崖下にある岩が誘う声なのでしょうか。

2.What She Said

スミス流ハードロックかというくらいギターが歪んでます。ラストではバスドラムもドコドコいってます。『Meat Is Murder』にも収録されている曲ということもあり、この時期のスミスを一番分かりやすく表現した曲かもしれない。

歌詞もサウンド同様にハードなもの。死ぬことでしか救われないような悲しい女性の歌。どうして誰も私が死んでいることに気づいて埋葬してくれないの?私はそのつもりなのに誰も分かってくれない彼女の言葉は手に入らない仕事や恋人に向けてのものではなかった私は早死にしたいからタバコを吸うの。何かにすがるものが必要なの!

3.Stretch Out And Wait

ハード寄りのサウンドだった2曲を終えて、ラストはアコギを基調とした清涼感ある1曲。シングルの流れで聴くとなんだかホッとする気持ちになれます。

メロ部分ではベースラインが曲を引っ張り、ドラムは全体通して抑えたプレイに徹していて、リズム隊の貢献度が光る曲ですね。大人っぽい雰囲気も感じます。

スミスでは珍しくセックスに関する歌詞。といってもロックにありがちな退廃的な方向には向かわず、あくまで上品に留めているのがモリッシー流かも。夜の間に世界が終わるのだろうか?それとも昼の間に世界が終わるのだろうか?といった詩的な表現も添えています。

内容は一言で言うと、全てを晒して嘘共々全てを受け入れようというものかな。とはいえ部分部分で僕には分からないとボカしているところもあったりして、あまりメッセージ性は入れていないような。先ほどのドラムに限らず、メンバー全員が抑えた表現に徹している感触があり、その辺りが大人っぽく、また味わい深い曲になっていると思いました。

2-8."That Joke Isn't Funny Anymore"

That Joke Isn't Funny Anymore ジャケット

お気に入り度
★★☆

Released Jul 1985

1.That Joke Isn't Funny Anymore

2.Nowhere Fast (live)

3.Stretch Out And Wait (live)

4.Shakespeare's Sister (live)

5.Meat Is Murder (live)

1.That Joke Isn't Funny Anymore

アコースティック色が強い初期のような曲ながら、曲展開や音響工作など実験的な要素も多い、他の曲にはない何気にユニークなタイプの一曲。

Aメロを繰り返さず、Bメロサビのみで繰り返すという流れや、フェードアウトしてまたフェードインするラストなど、曲構成は結構珍しい構築の仕方ですね。ディレイギターやフィードバックを駆使しながらも、曲の邪魔にならないようさりげなくスッと添えている感じが職人技です。

じっくり聴くと色々発見がある曲なのですが、ただまあやっぱり地味だよなあと。曲の作りが面白いながらも、初めの印象で感じた地味さをひっくり返すほどではないのがもどかしいというかなんというか。A面曲になってしまった故の印象かもしれないですね。アルバムの一曲だったら「Stretch Out And Wait」みたいな渋さが光る好曲として捉えていたように思う。

孤独な人たちは死ぬことだけが望みなんだと冗談を言うけれど、他人事ではないから笑えない。という歌詞。普通に死にたいとか言う歌詞よりよっぽどグサッとくる内容ですね。結局僕は微笑みながら死ぬのかもしれない他の人たちの人生で起こっていることが今僕にも起こっているという歌詞は、絶望的な状況の中での、悲痛な慰めなのでしょう。

この曲の主人公のような孤独な人たちは、そんな冗談を笑えないように、この曲を落ち着いて聴くのも難しいのかもしれない。

2.Nowhere Fast (live)

3.Stretch Out And Wait (live)

4.Shakespeare's Sister (live)

5.Meat Is Murder (live)

『Meat Is Murder』期のライブ音源を4曲収録。公式音源ではこの時代のライブアルバムは存在しないので意外と貴重。

スタジオバージョンとほぼ同じアレンジで、『Hatful Of Hollow』や『Rank』のようなライブならではのアレンジではないため、どうもそれらのライブ音源に比べると特長が乏しい気が・・・『Meat Is Murder』期のライブアルバムが未だに公式から出てこない理由が垣間見えたような。

とは言え、バンドの等身大での演奏が聴けるのが魅力で、バンドのみのシンプルな演奏によって良い方向に転がった曲もあり、「Nowhere Fast」はこじんまりとしたラフな感じが、「Meat Is Murder」はシンプルゆえに催眠性が出てきており、スタジオバージョンには無い新しい魅力を引き出している部分もあるように思います。

2-9."The Boy With The Thorn In His Side"

The Boy With The Thorn In His Side ジャケット

お気に入り度
★★★★★

Released Sep 1985

1.The Boy With The Thorn In His Side

2.Rubber Ring

3.Asleep

1.The Boy With The Thorn In His Side

『心に茨を持つ少年』という邦題を持つこの曲は、アコギとエレキギターを絶妙に絡ませた、華やかで優雅なギターワークが特徴のスミスを代表する一曲です。スミスの曲はよく”美しい”という形容をつけて賞賛されますが、この曲ほど繊細で美しいという形容が似合う曲はないと私は思います。

初期スミスのアレンジはバンドサウンドが根っこにあり、外部音はあくまでも装飾レベルのものでしたが、このシングルからはストリングスを入れたり、パーカッション的役割を持った効果音を入れてみたりと、バンド以外の外部音をふんだんに取り入れるという曲作りに変化しています。そういう意味ではこのシングルはスミスのターニングポイントと言えるかもしれません。外部音を取り入れるとバンドサウンドの存在感が薄れてしまうものですが、繊細で美しいギタープレイを行い、ギターの存在感を下げること無く曲のアレンジをまとめあげたジョニー・マーはやはり偉大なギタリストであり、偉大な作曲家でもあったんだなと改めて感じます。

歌詞は虐待された子供のことだと言われていますが、私はもっと普遍的なテーマで、反抗期の子供の心境がテーマなのではと思っています。大人は分かってくれないといったような具合に、反抗的な態度を取っているけれど、同時にその人からの愛情も欲しがっているという矛盾した感情を抱えて悩んでいる・・・思春期の頃なら誰もは一度は感じたことではないでしょうか。モリッシーの柔らかなヨーデル風ボーカルはそういった心境を包み込むように共感しているのかなと感じました。

あとこの曲はミックスが若干異なる、シングルバージョン(『World Won't Listen』収録)とアルバムバージョン(『The Queen Is Dead』収録)がありますが、ベスト盤とかで聴けるのはアルバムバージョンの方です。シングルバージョンはポンというシンセパーカッションの効果音が大きくて正直耳障りなので、私はアルバムバージョンの方がおすすめです。

それとスミスでは珍しいプロモーションビデオが存在します。演奏隊3人のイケメンぶりとモリッシーのキモさの対比に爆笑できる、改めてスミスの特異さを実感できる映像に仕上がっています。

2.Rubber Ring

スミスでは珍しく曲調とかギターからブルースっぽさを感じ、ストリングスの使い方も古き良き昔のポップソング風で、土着的で懐かしい雰囲気漂う曲です。終わりの部分ではどっかの放送をサンプリングした声を多用しており、スタジオワークによる実験的要素も感じられます。

歌詞は昔感動したり大好きだった曲を忘れてはいけないよというニュアンス。現在スミスは思春期のときに聴くもので、大人になればスミスの曲からは卒業するものだという風潮があるみたいですが、まさにそういった風潮を予見していたような歌詞に思えます。もしくは昔の曲だから古くさい、ダサい、時代遅れと切り捨ててしまう偏見について異議を唱えているのかも。モリッシーとジョニー・マーはもともと60年代ポップスが好きという共通点から意気投合し、スミスを結成したと言われていますし。

ラストにサンプリングの声で君は眠っている。信じたくないだろうけど。君は眠っている・・・と意味深な言葉が繰り返され、次曲「Asleep」に続く・・・

3.Asleep

物悲しいピアノと風が吹く音のみをバックに、モリッシーが歌うシンプルな楽曲。使用楽器の少なさや悲しい雰囲気など、「Please,Please,Please,Let Me Get I Want」に共通した世界観を感じます。もしくは『Hatful Of Hollow』バージョンの「Back To The Old House」とか。

歌詞は永遠に眠りたいというかなり直接的な自殺願望ソング。僕を哀れに思わないでほしい。知っておいて欲しいんだけど、僕は心の底から喜んでこの世を去るんだ。もう一つの世界があって、そこにはもっとましな世界がある。間違いない・・・間違いなくあるんだ・・・とかなり救いの無い内容。子守唄を歌って欲しい。とありますが、その子守唄はもしかすると前曲「Rubber Ring」で出てきた、昔感動したり大好きだった歌のことかもしれないと、私は思っています。

そしてラストに「蛍の光」のオルゴールが鳴り、フェードアウトしていく。私たちは普段「蛍の光」は卒業式といった場面で使われる、別れの歌としてのイメージがありますが、アメリカやイギリスでは祝いの歌として大晦日でよく使われるようです。そうなると「蛍の光」のオルゴールの演出について、私たち日本人は歌詞の主人公がこの世に別れてしまったという悲劇的結末を意味するものと考えがちですが、本当は歌詞の主人公は死ぬことによってもう一つのましな世界に行くことができたという、悲劇的だけれどある種救われた結末を意味するものなのかもしれません。

このシングルは外部音やサンプリングを入れることで、曲の世界への没入感を与えており、「Rubber Ring」と「Asleep」が切れ目無く続くことで、各曲が呼応し合い、遂にはシングル全体が1つの曲になっていく・・・シングルには短編小説を読むような、アルバムとはまた違う魅力があると、序文で述べましたが、まさにそんな魅力を味わえるコンセプチュアルな要素を持つシングルと言えるでしょう。シングルコンピレーションアルバム『World Won't Listen』でもこの3曲は聴けますが、やはりシングルの構成で聴く方が魅力的に感じます。

2-10."Bigmouth Strikes Again"

Bigmouth Strikes Again ジャケット

お気に入り度
★★★

Released May 1986

1.Bigmouth Strikes Again

2.Money Changes Everything

3.Unloveable

1.Bigmouth Strikes Again

大口を叩くせいで余計なことを言ってしまい、その結果苦境に立たされるという曲。一言で言うと口は災いの元というものですね。

そんな苦境に立たされている状況の中、僕は人類の仲間入りをする資格はないんだ今ならジャンヌダルクの気持ちがよく分かるとヒロイックに浸っているところがモリッシー的でもあります。発表当時より、ポロっと何気なくSNSで発言したことが炎上騒ぎに発展してしまう昨今の方が、色々な人に刺さる歌詞かもしれないですね。

割と激しめのロック調ながら、あえてアコースティックギターを前面に出したアレンジにしているのが特徴ですね。ドラムのフィルインが特徴の間奏は、余計な発言のせいで自分の周りが炎上している様を表現しているようであり、そのあたりも聴きどころの一つです。

しかし私にとってはスタジオバージョンはあまり好きではないんですよね・・・ライブアルバム『Rank』バージョンの方が私はお気に入りで、そちらと比べるとどうも曲のパワーが弱いというか・・・アコースティックギターのアレンジも一風変わって面白いの域を出ないですし、ボーカルもドラムのフィルインも平坦で起伏に欠ける感じですし。そういう理由でこの曲がそんなに好きではない人は、『Rank』バージョンの方を聞くと一転してこの曲が好きになれるかもしれないです。

「Back To The Old House」等と同様、ライブバージョンのせいで割を食ってしまった曲という認識ですね。ライブ映えする曲とも言えるでしょうか。

2.Money Changes Everything

スミスでは数少ないインスト曲第二弾。逆再生やトレモロギターなど音響的なギターが目立つ、サイケ感の強い一曲。

「Oscillate Wildly」とは違い、メロディを奏でる音があまり存在しないので、ボーカルが入っていない分やはり物足りない感じがある。本来ならば「How Soon Is Now?」や「Shoplifters Of The World Unite」みたいな曲になっていたのかもと思う。何気にベースとかファンクっぽい雰囲気あります。

3.Unloveable

自分は愛されない人物なのは分かってるけど、他人からそう言われるのは腹立つという曲。これは割と感情移入しちゃいますね(笑)。歌詞の節々からそんな苛立ちが匂わされていて、サビ終わりやラスト部分の盛り上がりは、怒りが爆発しそうな緊張感を表しているのかも。

ただ曲全体としては割と地味というか淡々としていて、すごくB面らしい曲とも言えます。

このシングルはスミスにしては珍しく、どの曲もあまりメロディアスな曲ではないので、どうも親しみやすさが足りない感触が。1stアルバム『The Smiths』が好きな人は結構気に入りそうな印象です。シンプルでこじんまりとした世界観で、ちょっと素っ気ない感じが結構雰囲気似ています。

2-11."Panic"

Panic ジャケット

お気に入り度
★★★

Released Jul 1986

1.Panic

2.Vicar In A Tutu

3.The Draize Train

1.Panic

ギターの派手に歪んだ音色や妙に明るい曲調などグラムロックっぽい作風の一曲。バウンシーに弾んだリズム、どポップなメロディとなかなか存在感がでかい曲ですね。

この曲も一にも二にも歌詞が印象的で、全く人生の役に立たないような曲を流すDJを吊し上げろ。という大分お怒りな内容。「The Queen Is Dead」しかり、この頃のモリッシーは初期に多かった自身のみじめな愚痴ではなく、社会に対して攻撃的に意見を表明するようになってますね。バンドの人気が高まり影響力が大きくなった環境の変化があったからなのでしょうか。

子供と一緒にDJを吊し上げろと何度も合唱するところは、ここまでくるともう面白くなってくる領域。なんつー歌詞を子供に歌わせてんねんと。楽しそうに一緒にシングアソングしているのを聴いてるうちに、なんかスミス流みんなのうたみたいに聴こえてきました。

でも歌詞の内容はすごく共感できます。現在も音楽のみならずメディアは世間と隔離したようなくだらないニュースやテレビ番組などを垂れ流し、ここインターネットでは目立つ目的で極端に過激であったりバカな事を表明する輩がネットニュースやSNSを賑わせている訳で。そういった目障りかつ耳障りなものが溢れている"パニック"な状況は、古今東西変わらないものなんでしょう。

2.Vicar In A Tutu

3rdアルバム『The Queen Is Dead』からのリカット曲。『Meat Is Murder』からちょくちょく出てきたロカビリー路線の一曲。

チュチュ(バレエで着るスカート)を来た男性牧師の歌という、これまたぶっ飛んだ内容。コメディな内容だと思うので、そこまで真面目に捉えなくてもいい歌詞かもしれない。

とは言え、彼はおかしいわけじゃないただ自分がやりたいように生きてるだけなんだと理解を示しているところはモリッシーらしいなと。

いい塩梅にラフでユーモラスな小曲という感じで、目立つ曲では無いけれど、好印象に感じてる人は意外と多いのではないでしょうか。崩れ落ちるように唐突に終了するラストがお気に入り。

3.The Draize Train

長い間CD音源化されることが無かったため、ライブアルバム『Rank』バージョンしか聴いたことが無い人が大半だったのではと思うくらい、実はスタジオバージョンはレア曲だったりする。それがApple MusicやSpotifyといったサブスクにシレっと入っていたのは、個人的にかなりビックリした出来事でした。

スミス3曲目となるインスト曲で、アップテンポなロックインストナンバー。アンディ・ルークのファンクなベースがいい味出してます。

そんなベース以上にジョニー・マーのギターが目立っていて、早弾きやエフェクティブなギターがこれでもかというくらいの大盤振る舞い。ボーカル抜きになった状況のためか、ここまでロックバンドのギターソロっぽいプレイをしたのはスミスの中ではこれが最初で最後だったと思う。ギタリストジョニー・マーの新機軸と言える曲。らしくない方向性なのかもしれないけど、この路線でのジョニー・マーのインストアルバムを聴いてみたい気持ちになった。

2-12."Ask"

Ask ジャケット

お気に入り度
★★☆

Released Oct 1986

1.Ask

2.Cemetry Gates

3.Golden Lights

1.Ask

ハワイアンまたはサーフっぽいイントロから始まるギターポップ曲。ハーモニカも入っていてアコースティック感があり、弾むようなリズムでポップなメロディはうきうきしてくるような雰囲気であり、キャッチーな名曲です。サビの歌詞は短めの単語が多く、それゆえにリズミカルな歌唱になっていて、そこが曲の起伏を生んで躍動感のある曲になっていますね。

歌詞もモリッシーどうしたんだと言いたくなるくらい、前向きな応援ソングになっていて、何か言いたい事があるなら僕に聞いてごらん、僕は「ダメ」だなんて言わない。そんなこと言えるわけないだろ?と内気な人を暖かく励ましていて、頼もしさすら感じられるくらい。

内気なのは良いことだ、でも内気さが君のやりたいことを抑えつけてしまう事があるんだ。恥じらいなのは良いことだ、でも恥じらいが君の言いたいことを遮ってしまう事だってあるんだ。という訳詞がありますが、個人的には内気なのは良いことだ、内気さがあるから好き勝手やったりしないんだ。恥ずかしがりやなのは良いことだ、恥ずかしがりやだから、言いたい放題したりしないんだ。という訳の方が個人的に好きですね。内気さや恥ずかしがりやという一般的にマイナスに捉えがちな気質を、長所として捉えなおしているのが、今までそういった人たちを肯定してきたモリッシーらしいと思うのですが。

明るくポップなメロディとモリッシーにしては珍しくポジティブな歌詞ということもあり、スミスの中で他の人に一番薦めやすく、また取っつきやすい曲になっています。

2.Cemetry Gates

前のシングルでもあった3rdアルバム『The Queen Is Dead』からのリカット曲。アコースティックギターのコード弾きが印象的なギターポップ。ギターのジャカジャカ感が爽快で気持ちいいです。

散文や詩を書くならば自分の言葉で書かないといけないよというような歌詞で、こんな文章を書くときでも色んなところからパクったりしている私にしては耳が痛い一曲。と言ってもモリッシーも文学や映画などから色々と引用している訳で。なので自虐的なユーモアソングというべきなんでしょうね。

盗用や借用したら、そういうのを嗅ぎつけて揚げ足を取るやつがいるんだ。君の言葉はこれまでに百回くらい聞いたことがある文章だという歌詞は、実際モリッシーもそういった批判をたくさん受けてきたんだろうなあ。

君にはキーツやイェーツがいるけど、僕にはワイルドがいるから、君の負けだ!とよく分からないジャッジで勝ち負けが決まっていますが、モリッシーがそう言ってるんだからその通りなんでしょう(思考停止)。

3.Golden Lights

トゥインクルという60年代のシンガーソングライターのカバー。人が変わってしまった恋人を嘆くネガティブな歌詞で、これは間違いなくモリッシーチョイスの曲だなと。

女性コーラスとフェイザーのエフェクトがかかったモリッシーのボーカルがメインという趣きで、スミスというよりモリッシーのソロみたいな作風。原曲の方がむしろバンド感があるくらいです。

正直スミスらしさというのはほとんどないのですが、フェイザーがかったボーカルのおかげか、郷愁的でふんわりと暖かい雰囲気があるのが特色でもあります。

2-13."Shoplifters Of The World Unite"

Shoplifters Of The World Unite ジャケット

お気に入り度
★★★★☆

Released Jan 1987

1.Shoplifters Of The World Unite

2.London

3.Half A Person

1.Shoplifters Of The World Unite

これまでのスミスは作品を重ねるたびに音をハードにしたり、サイケっぽくしたりなどなど、より良い音楽を作るために、過去を振り返らず前へ前へと曲作りを進めていましたが、このシングルではスミスのこれまでの歩みを確認するかのごとく、かつての自分たちが鳴らした音楽へプレイバックしたような曲が収められています。

まず最初のこの曲は「How Soon Is Now?」が連想されるサイケっぽい雰囲気をまとった曲で、ジョニー・マーのギターもいつものようなメロディ重視のプレイではなく、ヒステリックな音色のソロやシュコシュコと効果音のようなバッキングなど、かなり音響寄りなプレイを聞かせています。タイトルこそ『世界の万引き犯よ団結せよ』という物議を醸しだしそうな内容ですが、歌詞自体もモリッシーにしては珍しく抽象的な内容で、バックの音にせよ歌詞にせよ、聞いていてすごくモヤっとする心地。作った側もある程度その心地を狙っていたのだろうけど、なんでこんな異色作をA面にしたんですかね。

以上の点からすごく聴きにくい印象を受けますが、実は意外とそうではないんです。その要因は歌メロのメロディアスさにあり、特にShoplifters of world〜以降の歌メロは前半部分の重苦しさから一気に視界が晴れたかのような開放的なメロディになっていて、しかもスミスでは珍しいコーラス付き。さらにラストではしっかり盛り上がる展開を見せてフィニッシュするという、カタルシスを感じさせる構成。あと曲自身が横ノリしやすい曲のため、聞く方はもちろん、歌う方もさぞかし気持ち良いんだろうなあと思ったり。モリッシーはこの曲が大のお気に入りだったそうですが、こういった点が理由にあるのではと私は思う。

2.London

この曲は2ndアルバム『Meat Is Murder』期のような、バンド色の強いハードなサウンドになっていて、ノイジーなギターにドラムフィルインの連打があったりと、ライブ映えする一曲です。割りと地味な立場であったドラムのマイク・ジョイスですが、ここでは堂々と存在感を発揮しています。

歌詞は恋人や家族を故郷に残してロンドンに向かうという、いわゆる上京ソング。とは言え、さすがのモリッシー。上京してからの夢や希望といったありふれたテーマなんか歌うはずがなく、故郷に残された人たちの嫉妬や、もうあの人は故郷に戻ってこないという諦めといった負の感情を鋭くえぐった歌詞になっています。君は今回の決断が正しかったと思っているのか?と問いかけているのは、ロンドン行き電車のホームで見送った人なのか、それともロンドンに向かう本人自身なのだろうか・・・

この曲は不穏なメロディが現れてドラムフィルインの連打が入り、そのままフェードアウトしていくラスト部分が聴き所で、不穏なメロディは問いかけに対する答えが見つからないまま出発する不安や、上京後の悲劇的な未来を暗示しているように思えますし、ドラムフィルインは電車の車輪の音を表しているのでしょう。そしてフェードアウトは電車が走り去っていく情景といった具合に、曲調からは勢い一発で作られた曲に思えますが、実は描写的なアレンジも入っていて、そういった一工夫が優れた曲を生み出す秘訣なのかなと思いました。

3.Half A Person

そしてこの曲は1stアルバム『The Smiths』期を彷彿とさせる、線の細い音色が特徴な一曲。後期スミスの中にもこういった屈折的で繊細極まりない世界観は残ってたんですね。

とにかくこの曲は、5秒だけ時間をくれたら、私の人生の全てを語ってあげる。16歳、不器用で恥ずかしがりや。これが私の人生。という歌詞がインパクト大。自分は空っぽな人間ということを、「自分の人生を5秒で語れる」という、ひねくれていてあまりにも切ない言い回しで淡々と歌うところが、悲哀を誘います。

ジョニー・マーもこの歌詞が印象的だったのか、曲全体としては淡々とギターを弾いているのに、〜I went to London and Iの後にだけ感情的な激しいストロークを入れることで、その辺りの歌詞が聴き手の感情に訴えるよう演出していて、私はいつもこのストロークで心揺さぶられてしまいます。また〜That's a story of my lifeの後は音を下げてストロークしていたりと、ほんと芸が細かいなあと感じます。

モリッシーの歌詞は、食肉は殺人だ女王は死んだという扇動的な歌詞よりも、こういった私小説的な観点から書かれた歌詞の方が魅力的だと思うし、これこそがモリッシーしか書けない唯一無二の世界観じゃないかなと思います。

2-14."Sheila Take A Bow"

Sheila Take A Bow ジャケット

お気に入り度
★★★★

Released Apr 1987

1.Sheila Take A Bow

2.Is It Really So Strange? (Peel session)

3.Sweet And Tender Hooligan (Peel session)

1.Sheila Take A Bow

T.Rexを想起させるグラムロックアレンジな一曲。「Panic」も同系統の曲だったこともしかり、この時期のスミスはグラムロックがブームだったのでしょうか。

ストリングスなど外部音がグラムロックアレンジだけあって結構派手め。そういう意味ではあまりスミスらしい曲ではないのですが、モリッシーのボーカルが強力なおかげか、それでもなんとなくスミスっぽく聴こえちゃいます。今になって思うと、この派手なアレンジが次のアルバム『Strangeways, Here We Come』の布石だったのかもしれない。

歌詞はそんな派手めなアレンジのためなのか、割と前向きでカラッとした印象。自分らしさを大事にしてもいいんだよという内容。歌詞を細かく見ていくと、男らしさ女らしさに囚われなくてもいいという意味も内包されているような気がする。そうなるとコテコテのグランロックアレンジにしたのも理解ができる。グラムロックは中性的なファッションやメイクをした人たちの音楽ですし。ジャケット写真の人物はゲイの人らしいので、結構説得力あると個人的に思ってます。

2.Is It Really So Strange? (Peel session)

2,3曲目はジョンピールセッションというラジオ番組用にライブ録音したバージョンの新曲を収録。両曲とも結局スタジオ録音バージョンは発表されなかったので、このバージョンが実質本バージョンになっております。ライブ録音ということで、バンドだけのシンプルなサウンドになっていて、前曲との落差がすごい(笑)。とは言えこういったシンプルな音の方がスミスらしいとも思います。

この曲は『Meat Is Murder』に収められてそうな50年代ロックンロールテイストの曲。明るいわけでも暗いわけでもない雰囲気で、ミッドテンポかつメロディは割と淡々としていて、捉えどころが難しい一曲。ライブアルバム『Rank』に収録されていたりと、当人たちは割と気に入っていたような感があるが、このあたりがB面に収まってしまった理由であるように思える。

タイトル通りそれってそんなに変なことか?という歌詞で、同性愛の雰囲気も感じさせる一曲。全体的に「What Difference Does It Make?」に似ているような気がする。相手が自分のことを理解してくれないところや、そんな中でも相手を愛してしまってどうしようもないところとか。

モリッシーの歌詞にはよく「家には帰らない」というフレーズがありますが、これは当たり前・常識・固定観念といった価値観から抜け出すことを表しているのでしょうか。

3.Sweet And Tender Hooligan (Peel session)

疾走感溢れるパンキッシュな一曲。この曲をA面にする方が良かったのではと思うくらい、単純にカッコいい曲です。「Handsome Devil」しかり、スミスにとってこういう疾走感のある曲はライブ録音の方が良いというこだわりでもあったのでしょうか。

モリッシーはいつになくリズミックな歌唱で、ジョニーマーもアルペジオをあまり使わずコードストローク中心のギターで、スミスにしては珍しいくらいストレートにロックしています。普段ならボーカルやギターワークに一ひねり入っているのに。そのあたりがベタすぎたと感じてB面になったのかもしれないですね。

個人的になかなか解釈が難しい歌詞で、フーリガン(暴れ者)を皮肉っている、いやもしかしたら憐れんでいる内容なのかも。

自身の状況を変えることができないため、投げやりになってしまっているように見え、激しいギターをバックに「エトセトラ」と吐き捨てるように繰り返している様は、空虚でやけになった様子を表しているようで、スミス屈指のカッコいい曲ながら、実は一番哀しい曲なのかもしれない。

2-15."Girlfriend In A Coma"

Girlfriend In A Coma ジャケット

お気に入り度
★★

Released Aug 1987

1.Girlfriend In A Coma

2.Work Is A Four Letter Word

3.I Keep Mine Hidden

1.Girlfriend In A Coma

推進力のあるベースのイントロでノリの良い曲かと思いきや、アコースティックギターのアルペジオが響く初期スミスっぽい曲になり、そして途中から存在感大のストリングスが唐突に入るという異様なナンバー。なんだこれ。

なので壮大な曲というべきか、こじんまりとした曲というべきか、一言で表現しづらいスペクタクルな曲になりました。面白い曲です。

歌詞もそんな異様なアレンジに触発されたのかという内容で、タイトルの通り昏睡状態のガールフレンドを描いたもの。明るいメロディとの不協和感が凄い。彼女を殺しそうになったという物騒な歌詞も印象的。

歌詞の内容をそのままに捉えれば、尊厳死や安楽死に通じる内容になるのでしょうが、まあおそらく比喩的な表現で、大好きな物事の終わりを受け入れる・ケリをつけるといった内容なのでしょう。最初はもう助からないんだろう?彼女に会いたくない。と目を背けていたのが、彼女に会わせてほしい。最後にさよならを言いたい。と踏ん切りをつけたことは、初期スミスとは違う力強さが感じられます。

2.Work Is A Four Letter Word

シラ・ブラックという60年代の歌手・俳優の曲をカバー。同タイトルの映画曲らしく、シラ・ブラックはwikipediaを見る限りイギリスでは有名な人のようです。60年代ポップスが好きなモリッシーの選曲でしょうね。

後期スミスのカバー曲は評判がかなり悪い印象なのですが、「Golden Lights」と違ってバンドサウンドでスミスらしさはそこそこあるので、個人的にはそこまで嫌いじゃなかったりします。

Four Letter Wordというくらいだから、仕事なんてクソくらえという意味なんでしょうか。シラ・ブラックはどういう意図で歌っていたかは分かりませんが、モリッシーは間違いなくその意味で歌っていると思う(笑)。

3.I Keep Mine Hidden

「Panic」「Sheila Take A Bow」に派手さを取っ払ったような曲。後期スミスの嗜好であるグラムロック感をベースにサラッと作った小曲という印象。

僕は自分を押し殺している。けど君にとって人生はとても容易いもの。君は自分の本心を打ち明けることができる人だから。とあるように、派手さを取っ払った分、「Panic」「Sheila Take A Bow」に比べると後ろ向きな内容。

自分を出すというのは、自分に自信が無いとできないことですからね。アイデンティティが確立されていない思春期の子にしてみれば、なかなか難しいことではあると思います。年を重ねていけば、自分の人生経験から多かれ少なかれ自信はついていくものだと分かるようになるのですが。最後はスミスと全く関係ない話になってしまった・・・

2-16."I Started Something I Couldn't Finish"

I Started Something I Couldn't Finish ジャケット

お気に入り度
★★

Released Nov 1987

1.I Started Something I Couldn't Finish

2.Pretty Girls Make Graves (Troy Tate demo)

3.Some Girls Are Bigger Than Others (live)

4.What's The World? (live)

1.I Started Something I Couldn't Finish

後期スミスの特徴であるグラムロックな一曲。イントロの歪んだギターやモリッシーの唸るボーカルもあってか、ヘビーな印象の曲。

ホーンやストリングスアレンジ、スネアドラムの派手な音加工もあり、デビューアルバムの頃に比べると別バンドかと思うほどの変貌ぶり。

アルバム単位で聴いていた人にしてみれば、『The Queen Is Dead』からの大きな変化に面食らうかもしれませんが、シングルで追っていけば、こういったグラムロックの布石は以前のシングルではありましたので、割と順当な歩みの方向性で作られた曲だと感じます。

僕は何かを始めた。僕は君を引きずり込んだ。君は明らかにそこに行くべきではなかった。僕は何かを始めた。けどそれが正しかったか自信がない。と、この時期に起こったスミスの解散劇をふまえると、暗示的な内容ではあります。

初期は内向的であることを肯定したり、中期はマッチョ文化や権威に抗ったりと、ある種の力強さとユーモアがあったモリッシーの歌詞ですが、『Strangeways Here We Come』時代の曲はスミス解散のゴタゴタがあったせいかもしれませんが、自身やバンド周りにしか目を向けられていない余裕の無さを感じますし、そういった状況を打破しようとするパワーも一時的に無くなっていたのではないかと。

『Strangeways Here We Come』時代の曲は割と派手なアレンジがスミスらしくないとよく言われますが、モリッシーの歌詞もらしくない内容が多かったのではないかと感じます。

2.Pretty Girls Make Graves (Troy Tate demo)

デビューアルバム『The Smiths』に収録された曲の別バージョン。もともとデビューアルバムはこのTroy Tateバージョンで進められていたのですが、紆余曲折があって『The Smiths』のバージョンが収められたらしいです。

原曲に比べるとリズム隊の音がよく聞こえるおかげかバンド感が強く、途中で弦アレンジも入ったりと、なかなか面白い曲になっています。『The Smiths』はシンプルで淡々としているところが欠点でもあったので、Troy Tateバージョンの曲が何曲かあれば、いい塩梅に起伏も生まれて、もっと評判のいいアルバムになっていたのではないかと思う。

3.Some Girls Are Bigger Than Others (live)

『The Queen Is Dead』収録曲のライブバージョン。ギターのアルペジオが印象的な曲ではあったのですが、リズム隊が抑えめな演奏のおかげか、ライブではさらに存在感がアップして、もう弾き語りと言っても良いような曲になっています。

ギターも繊細な音から柔らかい音に変化していて、リラックスした雰囲気が魅力ですね。隠れた好ライブバージョンではないでしょうか。

4.What's The World? (live)

Jamesというバンドのカバー。スミスと同時代で同じマンチェスターのバンドらしいです。

原曲に忠実な演奏ですが、やはりスミスらしくパンキッシュな要素が原曲より強く出ています。ラスト前のギターカッティング辺りがお気に入りで、ドライブ感があってかっこいいです。

2-17."Last Night I Dreamt That Somebody Loved Me"

Last Night I Dreamt That Somebody Loved Me ジャケット

お気に入り度

Released Dec 1987

1.Last Night I Dreamt That Somebody Loved Me

2.Rusholme Ruffians (Peel session)

3.Nowhere Fast (Peel session)

4.William, It Was Really Nothing (Peel session)

1.Last Night I Dreamt That Somebody Loved Me

「昨晩誰かが私を愛してくれる夢を見た」という、タイトルだけでどういった曲か分かる、秀悦なタイトルの付け方ですね。

昨晩本当の腕のぬくもりを感じたんだ。けどそれは間違いだったんだと、哀しいというか夢も希望もない虚無の歌という内容で、これが最後になるまで、あとどれくらいなの?と、「How Soon Is Now?」のようなフレーズまで飛び出してくる。すごく苦しくて辛い内容。

希望が無ければ、傷つくことはないという歌詞は、先行きの見えないしんどい状況に立たされている人にとって、すごく響く歌詞ではないでしょうか。

人混みのSEと悲しい音色のピアノのイントロが2分近くも続くという、今まで短い曲なら2分台でまとめていた、簡潔を是としていたはずのスミスにしてみればらしくない作りで、世界観の演出なんでしょうけど、正直冗長と言わざるを得ないですね。ストリングの派手なアレンジもありますが、それよりこんな単調で冗長なイントロをスミスにはやってほしくなかったというか。

バンドの音もそこまで目立っていないので、らしくない作りを含めて、スミスよりモリッシーのソロ曲という印象。

2.Rusholme Ruffians (Peel session)

3.Nowhere Fast (Peel session)

4.William, It Was Really Nothing (Peel session)

1984年頃に収録されたこれまたジョンピールセッションからの音源。『Hatful Of Hollow』しかりスミスはこのセッション番組好きだったんだなあ。

原曲と変わらないアレンジですが、スタジオライブということもあり、ベースやドラムの存在感が大きく、やっぱりスミスは"バンド"なんだなと再認識。

1曲目のゴージャスなアレンジとは異なり、バンド4人だけのシンプルなサウンドなのですが、モリッシーやジョニー・マーだけでない、バンドメンバー全員の力が合わさったスミスらしいサウンドではないでしょうか。最後のシングルでそう感じることになるのは、皮肉な感じでもあります。