私がラジオやパソコンなど何かを聴いている時は、ほぼ100%ステレオで、モノラルで聴くことはまず無い訳で。なのでモノラルというと前時代的なもので、ステレオに比べたら劣っているものという印象がありました。
しかし、モノラル音源の音楽を聞く機会が出てきてから、ステレオには無いモノラルならではの良さがあることに気づきました。
モノラル音源は、全ての音が1つのチャンネルから出力され、左右同じ音が流れる仕組みになっています。それゆえに音楽の中での楽器の位置関係が分かりづらく、ステレオに比べるとフラットな印象を受けます。しかし逆に音の塊がドカーンと迫ってくるような力強さがあり、ロックバンドといったバンドアンサンブルでは、ステレオ以上に迫力や魅力を感じやすくなっていまして、特にベースやドラムのリズム隊の力強さがステレオより印象的に聴こえます。
だからなのか、シンプルな音楽性のロックバンドが、たまにモノラル録音で音源を発表していることがあり、それはこういった効果を狙って発表していると思われます。クロマニヨンズは基本モノラル録音らしいですよ。あと昔の話だけどミッシェルガンエレファントの「G.W.D」もモノラル録音だったらしいです。
私がこのモノラル音源という存在を意識しだしたのは、ご多分に漏れずビートルズの『Mono Box』でした。ビートルズが活躍していた60年代はまだまだモノラルが主流だったようで、モノラル音源のミックスはビートルズメンバーが立ち会っていたけれど、ステレオの方はスタッフに任せっきりだったらしいです。なのでモノラル音源の方がビートルズが意図する音像になっているという評を知り、あえてモノラル音源の方を聴いてみようというのがきっかけでした。でまあ、実際聴いてみたら、バンドとしての迫力があってすごく良かった。特に最初の2枚『Please Please Me』と『With The Beatles』は、ライブで鳴らしたロックバンドとしての魅力を伝えていて、ビートルズがこの2枚で一気に人気を博したのは、単純に良い曲を書いただけではなく、バンドとして素晴らしい演奏ができていたからというのを実感しました。
あとストーンズの60年代でのモノラル音源を収めた『In Mono』もとても良かった。ストーンズはミックジャガーとキースリチャーズ、あとゆかいな仲間たちという印象でしたが、モノラル音源を聴くとリズム隊の存在感がステレオより大きく、ストーンズというバンドの本当の姿はこうだったんだと感じました。「Paint it, Black」のドラムや「Mother's Little Helper」のベースなんて、ステレオと比べると全然違う印象でっせ。
60年代はステレオ自体がまだまだ発展途上であり、ステレオの方法論が確立されていない時代だったので、ステレオ音源は現在聴くと違和感を感じるものが少なくないんですよね。左側だけベースが聞こえて、右側だけドラムが聞こえるといった、いわゆる「泣き別れミックス」というのが多く、スピーカーで聴けばまだ左右の音が混ざり合って聴けるのですが、ヘッドホンで聴くと違和感アリアリ。
個人的に知ってる限りでは、バーズとかスライアンドザファミリーストーンなんか、この泣き別れミックスで損している部分も多いように感じます・・・しかも録音の問題なのかステレオも現代仕様として新しくミックスされていないため、今も泣き別れミックスの音源しか無いのも痛い。50年代の名プロデューサーであるフィルスペクターや、ビーチボーイズのブライアンウィルソンがモノラル音源を好んでいたと言われていますが、音がひと塊になるモノラルの魅力を好んだだけでなく、当時のステレオが泣き別れミックスになっていることへの不満もあったのではないかと思います。
となると、60年代の音楽は全てモノラルの方が良いのかというと、そうとは限らないのがこれまた難しいところでして。例えばステレオの音の広がりとか分離感は、モノラルでは得られない魅力があります。先ほど例で挙げたビーチボーイズで最高傑作と名高い『Pet Sounds』はバンド以外の音もふんだんに入っていて、そういった音の世界を楽しむのはステレオの方が良いと感じたりします。
あと60年代とは言え後半の67年以降になってくると、録音技術の発展によるものか、ステレオでもそこまで違和感なく聴ける作品が増えてる印象です。ヴェルヴェットアンダーグラウンドとかドアーズとか、音色や雰囲気が特色のバンドはステレオで聴いてもそこまで劣っていない印象です。曲全体というより音自体を楽しめるのがステレオのメリットかなと。ビートルズも音色がバラエティ豊かになる『Revolver』以降は、ビーチボーイズの『Pet Sounds』同様ステレオでも特に違和感なく聴けますし。
こういったモノラルとステレオを比較していくと、なぜステレオが主流になったのかがなんとなく見えてきました。昔のロックやジャズといった音楽は、演奏者以外の音は基本入ることがないため、モノラルの方がシンプルで力強い印象を与えることができますが、演奏者以外の色々な外部音を入れていきたいというニーズに応えるためには、ステレオの方が適しているということが言えそうです。67年ごろくらいからそういった潮流が強くなり、その潮流に適切だったのがステレオだったのかなと。
70年代にもなれば、ステレオでのミックスもこなれてきたため、ステレオでもバンドの迫力を十分に引き出すことができるようになりました。となると、わざわざモノラル音源にする意味が薄れてしまったんでしょうね。70年代の代表的バンドであるレッドツェッペリンがステレオ音源しか無いことが、その象徴と言えそう。
そのステレオが主流になってから50年以上も経つにも関わらず、ステレオから発展した音源が主流になっていないのが興味深いところです。バイノーラルとかサラウンドといったものがありますが、音楽においては主流とは言い難いですね。こういったサウンドシステムに革命が起これば、ここ最近新たな音楽が生まれず停滞している感がある音楽シーンに、新たなインスピレーションをもたらすかもしれない・・・
なんかとりとめのない話になってしまったけど、言いたいことは60年代の音楽でなんかあまり好みじゃないものは、モノラル音源があったらそれを聴くと印象がガラッと変わるかもしれませんよと。私にとっての初期ビートルズや60年代ストーンズみたいに。いや、これほんとおススメしたい。ミックスの違いでこんなに印象が変わるのかと驚くこと請け合いですから。