Dead Flowers

Pink Floyd「The Dark Side Of The Moon」

The Dark Side Of The Moon ジャケット

お気に入り度
★★★★

Released Mar 1973

1.Speak To Me

2.Breathe

3.On The Run

4.Time

5.The Great Gig In The Sky

6.Money

7.Us And Them

8.Any Colour You Like

9.Brain Damage

10.Eclipse

70年代を代表するプログレバンド、ピンクフロイドの代表作。邦題の「狂気」というタイトルでおなじみ。プログレというと、曲の時間が10分を平気で超えてくるほどすごく長く、演奏がハイテクニックで難しい音楽というイメージですが、このアルバムにおいては、そういった10分超えの曲はなく、また複雑な曲もなく、普通にポップスの感覚で聴ける作品になっています。ピンクフロイドのみならずプログレ初心者の入門盤としてもおススメです。

私がこのアルバムを知ったのはミスチルの『深海』で、フロイドっぽいとか、『The Dark Side Of The Moon』の影響を感じるというレビューを見て、これはぜひ聴いてみようと思ったのがきっかけです。確かに効果音を印象的に使っていたり、曲と曲が空白なくつながっている、コンセプトアルバムである点とか確かに影響を感じますね。

邦題の通り、「人間の内面による狂気」というコンセプトで描かれた作品で、「時間」「お金」といった誰もが心当たりのあるテーマが扱われています。その時間や老いといった後悔を描いた「Time」の歌詞は、アクティブな人間ではない私にとって、いつ聴いても強烈な歌詞で、心の中で「うああああああ」と喚いてしまいます。あかん、ワイも狂気に囚われ始めてまう・・・!

倦怠にまみれた一日を刻む時計の音
おまえはただ無雑作に時を浪費していくだけ
故郷のちっぽけな土地から出ようともせず
手をひいて導いてくれる誰かか何かを待つだけ

陽だまりの中で寝そべることに飽き飽きして
家の中から降りしきる雨を眺める毎日
若いおまえにとって人生は長く
どんなに無駄に使ってもあり余るほどだ
だが、ある日おまえは
10年があっという間に過ぎ去ったことに気づく
いつ走りだせばいいのか、誰も教えてはくれない
そう、おまえは出発の合図を見逃したのだ

「Time」

訳詞引用元:Pink Floyd - Dark Side of the Moon / 狂気


ただ前作の『Meddle』が好きな私としては、ちょっと好きになり切れない部分があったんですね。まずサウンドがくっきりと明快になったこと。前作まではどちらかと言えば不明瞭でおぼろげなサウンドで、それがフロイドの幻想的な音世界に浸れる要素だったのですが、今作ではそれが少し失われてしまったように思いました。

あとは良くも悪くも歌詞に大きく焦点が当たっているのも気になります。これまでのフロイドは音だけで世界観を表現できるバンドだったのですが、今作では歌詞が前面に出てきて、言葉で世界観を表現する、悪く言うと安易な手段をとってしまったように感じます。このアルバム制作時では、一つの方法論としての挑戦だったのかもしれませんが、後の『Wish You Were Here』『Animals』『The Wall』でも同じやり方で、その結果まず言及されることが歌詞の内容になってしまったこともあり、なんというか、クリエイティブな音楽家という点においては、決して良かったとは言い切れない変化が出てきた作品だったのかなと思います。

そういう意味では、このアルバムはピンクフロイドの過渡期にあたる作品であり、これまでのフロイドが出していた幻想的な音世界と、後の作品につながる印象的な歌詞が両方とも内在された、フロイドのおいしいところが詰まった作品だと思います。あと世界観が分かりやすくなったこともあり、その結果全世界で5000万枚以上の売上を上げることができたんでしょう。


本当は評価を★★★くらいにしようと思っていましたが、「The Great Gig In The Sky」や「Us And Them」を聴いて、印象より幻想的な部分は残っていて、自分の中で思ったよりいいアルバムだなと再認識しました。上述の通り、幻想的だけど抽象的で分かりにくいこれまでのフロイドと、歌詞が印象的で分かりやすい後のフロイドの部分が、ギリギリのバランスでうまく混ざり合った作品なんだなと。

私自身は、ピンクフロイドの魅力は、ロジャーウォーターズが書く印象的な歌詞ではなく、リチャードライトを中心に出される幻想的な音にあったんだと改めて思いました。