お気に入り度 Released Apr 2004 |
1.言わせてみてぇもんだ
2.PADDLE
3.掌
4.くるみ
5.花言葉
6.Pink~奇妙な夢
7.血の管
8.空風の帰り道
9.Any
10.天頂バス
11.タガタメ
12.HERO
ミスチルのロックサイドにおける名盤が『深海』ならば、ポップサイドの名盤は個人的にこの『シフクノオト』だと思ってます。ダークな雰囲気のロックが『DISCOVERY』っぽい「言わせてみてぇもんだ」「掌」、変てこりんな曲とベッタベタで壮大なバラードが『Q』を彷彿とさせる「天頂バス」「タガタメ」、ピアノナイズな楽曲が『IT'S A WONDERFUL WORLD』みたいな「Any」「HERO」と、活動復帰後のアルバム3作を総まとめしたような内容になっているのが、『シフクノオト』の特徴です。
これまでのミスチルはアルバムごとにカラーがはっきりしていて、そのカラーが好きになれなかったらちょっときつい部分もあったりしたのですが、今作ではロックやポップス、派手さやシンプルさ、ド直球な曲や変化球な曲など、硬軟織り交ぜて聴きやすく作っていて、ミスチルで一番薦めやすいアルバムに仕上がっています。ミスチル最高傑作の一つに挙げてもいいくらい。
シングルらしからぬダークでヒップホップな曲で、他人の違いを尊重し合う歌詞が素晴らしい「掌」、重ねたボーカルが初期の雰囲気漂う小品なピアノソング「花言葉」、穏やかでホッとするような快作「空風の帰り道」、小市民的な願いを歌うバラード「HERO」と、こうして羅列すると良曲のアベレージ率がすごい高いですわ。人気の高いポップな「PADDLE」をアルバム曲で終わらせている辺りは、余裕ぶりを感じさせるというか。
先ほど過去の3作を総まとめしたアルバムだと評しましたが、このアルバムならではの曲もあったりしまして、それが「Pink~奇妙な夢」「血の管」。「Pink~奇妙な夢」はサイケ感あふれる一曲で、くぐもっていて霧がかっている世界観が良いですね。「血の管」は静謐なピアノバラードで、最小限の音だけなのが逆にヘヴィな雰囲気を与えています。なので「空風の帰り道」に切り替わったときの解放感がすごい。
とまあ音楽自体は本当に素晴らしいのですが、個人的に歌詞がちょっと気に入らないと言うか・・・
当時ミスチルは歌詞が素晴らしいバンドと評されていたのですが、そういう評判にプレッシャーを感じていたのか、良い歌詞を書こうとして逆に安っぽくなってしまったような印象を受ける歌詞も見受けられるようになりました。
どこかで掛け違えてきて
「くるみ」
気が付けば一つ余ったボタン
同じようにして誰かが持て余したボタンホールに
出会うことで意味が出来たならいい
人生をフルコースで深く味わうための
「HERO」
幾つものスパイスが誰もに用意されていて
時には苦かったり
渋く思うこともあるだろう
そして最後のデザートを笑って食べる
君の側に僕は居たい
上記の歌詞とか比喩的に表現した結果、結局何を言いたいのか分かりにくくなっている気がするんですよね。ストレートに表現すれば2フレーズくらいで収まっていたんじゃないのっていう内容をごちゃごちゃ言っているのが鼻につくというか。「掌」や「Any」の以下みたいな歌詞でズバッと表現してもらうような歌詞の方が、ミスチルの場合心に響くし、らしい歌詞だと思うのですが。
ひとつにならなくていいよ
「掌」
認め合えばそれでいいよ
「愛してる」と君が言う 口先だけだとしても
「Any」
たまらなく嬉しくなるから それもまた僕にとって真実
次作『I ♥ U』では読ませる気が無い歌詞カードになってましたので、歌詞周りは色々壁にぶち当たっている時期だったのかもしれないです。
このアルバムの先行シングルで発売された『掌/くるみ』がロングヒットしまして、音楽番組を見るといつまでベスト10に入っているのかと思うくらいの息の長さでした。またその「くるみ」のPVも話題を呼んで賞をもらったりしてました。そしてこのアルバム自身も、売り上げ確保のために色んなミュージシャンがベストアルバムを出していた時期だったのですが、そういったベストアルバムをねじ伏せて年間売上2位に食い込んだのは痛快な出来事だったと思います。さすがに宇多田ヒカルのベストにはかないませんでしたが(笑)
こうして見ると、この2004年頃はミスチルにとって風が吹いている時期だったなと感じます。全てが良い方向に向いているというか。90年代の大ヒットバンドではなく国民的人気のバンドになりえたのは、このアルバムの成功によって90年代のミスチルを知らない層に大きくアピールできたのが要因の一つでは無いかと思ったりしています。