お気に入り度 Released Sep 2002 |
映画化されたこともあってか、小説をそんなに読まない私でもなんとなく聞き覚えがあった、横山秀夫の代表作。
アルツハイマーの妻を警察官が殺害したという事件で、犯人が頑なに語らない「空白の2日間」の謎をめぐって、様々な人物の視点から描かれるストーリー。
ラストまでは話自体はそこまで大きく進展しないため、退屈になりそうなものですが、事件に関わる刑事、検事、新聞記者、弁護士、裁判官、刑務官と色んな人物から見た殺人事件、犯人像、そして少しずつ明らかになっていく謎と、冗長にならないよう上手く計算された構成になっています。各章の中心人物が他の章でも登場し、お互いに影響を及ぼし合っているところも、この作品の面白いポイントかと思います。
登場人物それぞれが、自身の立場や個々に抱える問題、組織の束縛、圧力、保身といったものに翻弄されたり葛藤したりするところは、多かれ少なかれ共感、感情移入してしまいます。それゆえ読むスピードもだんだん上がっていく(笑)。
しかしその肝心の謎が個人的に消化不良だったなと。自身がドナー提供して助かった青年に迷惑をかけたくなかったというのが真相だったのですが、それまでドナーの話なんて全然出てきていなかったので、正直唐突感がすごかった。
それまではアルツハイマー病にかかった本人の苦悩、その人を介護する人たちの疲弊といった、アルツハイマー病の問題を多く描いていたので、正直テーマがブレてしまったように思います。アルツハイマー病とドナー問題、両方とも伝えたかったことなのかもしれませんが、このストーリーの場合アルツハイマー病にテーマを絞った方が良かったような。
すごい謎を勝手に期待して裏切られたというだけなのかもしれませんが、ただ謎が明らかになるラストまでは楽しく読めたので、ある事件に関わる人たちの群像劇と捉えれば、すごく面白かった小説です。