お気に入り度 Released May 1944 |
昭和初期を代表する説明不要の文豪、太宰治の短編作品。『人間失格』や『斜陽』といった代表作ではなく、割とマイナーなこの作品を取り上げたのは、学校の教科書がきっかけです。夏目漱石の『こころ』みたいに、どうして代表作を教科書に載せないんだろうと、当時学生だった私は思ったのですが、退屈な授業の暇つぶしに読んでみたら、結構楽しく読めてしまいました。
両親が亡くなり兄と兄嫁の三人で貧しい暮らしをしていた女の子が、お使いでもらったスルメを兄嫁にプレゼントしようとしたが、帰り道の途中でスルメをなくしてしまい気落ちしてしまうが、人間の眼は風景をたくわえることができると兄から聞いたのを思い出し、せめてこの綺麗な夜の雪景色を瞼に焼き付けて兄嫁に見せてあげようというストーリー。
厳しい状況の中でも暖かく気丈に生きるハートフルでいじらしいストーリーで、優しい兄嫁と女の子の人を思いやる姿はほっこりしてしまいます。そんな読後感の良さと話の短さをあいまって、思い出した時につい読み返してしまう小説です。
ただこの小説で一番面白いのが実は兄の方で、小説家くずれで家事も全く手伝わないクズみたいな人物なのですが、可笑しみのある良いキャラしています。
これ40近くのおっさんがやってるんですよ。色々ヤバすぎるだろうと。ただ、この兄がいるからこそ、シリアスになりそうな場面も、彼が出てくると可笑しみのある展開に変わりますし、ストーリーのみならず家族にとっても、兄はムードメーカーな立ち位置でもあったのかなと。
ダメそうなやつでも思わぬところで役に立っているものなんだなあと、今回読み返して感じた次第でございます。