Dead Flowers

felt「Crumbling The Antiseptic Beauty」

Crumbling The Antiseptic Beauty ジャケット

お気に入り度
★★★☆

Released Feb 1982

1.Evergreen Dazed

2.Fortune

3.Birdmen

4.Cathedral

5.I Worship The Sun

6.Templeroy

フェルトの音楽性は大別して2つに分けられ、冷涼なギターとネオサイケな雰囲気漂うチェリーレッドレーベル時代の前期と、温かみのあるオルガンを主軸としたギターポップが特徴のクリエイションレーベル時代の後期があり、今回紹介するアルバムはそのチェリーレッド時代最初のアルバムになります。

現在ではフェルトはネオアコの文脈で語られることが多いバンドですが、個人的にそれはあまり適していないように思います。アズテックカメラやオレンジジュースといった代表的なネオアコバンドのように、爽やかでクリーンな要素なんてこれっぽっちも感じないですし。どちらかと言えばジョイディヴィジョンや初期キュアーのような沈鬱で重い雰囲気がフェルト本来の資質だと思います。


このデビューアルバムはそんなフェルトの資質がストレートに出た作品で、つぶやくようなボーカルは孤立感があり、あまりエフェクトを掛けていないギターは生々しさを感じさせ、タムをメインとしたフレーズのドラムは息苦しさを演出していて、粗削りながら独自の世界観を築き上げています。ネオアコではなく完全にネオサイケな音楽性ですね。「防腐処理された美の崩壊」というアルバムタイトルは、粗削りで装飾が薄いこの音世界を表らわし、また軽薄で上っ面だけ取り繕った流行音楽に対するカウンターでもあるような、個人的にそんな意味が込められていそうなタイトルだと思います。

とまあ、ここまで読むと、凄まじく重苦しい音楽で、聴いていると気分が滅入ってしまうようなアルバムだと思ったかもしれませんが、実は案外そうではなかったりするんですよ。その理由の一つはチェリーレッド時代の大きな個性である、モーリス・ディーバンクの流麗なギターにあります。ブルース感の薄いクラシカルなギターフレーズは格調高い雰囲気で、フェルトの音楽を暗いだけでは収まらない、淡い光のような美しさを付加しているように思います。

またフェルトはインスト指向の強いバンドで、ボーカルや歌詞を聴かせるというのはあまり主軸に置いていなかったと思います。ボーカルや歌詞といった主観的な要素をあまり入れずに、楽器のみで音楽を作り上げているためか、ちょっと離れた視点から世界観を構築している感じなんですよね。なので暗くて重苦しい音楽だと言っても、ズルズル気持ちが引きずり込まれる暗さではなく、冷静で客観的に見れる暗さと言うか・・・感情的ではなく感覚的な音楽と言うべきでしょうか。

そういった要素が最高の形で出たのが、1曲目の「Evergreen Dazed」。完全インストでギター2本のみの曲ながら、"移ろいゆく緑"の美しさを表現した名曲です。シンプルなコード進行ながら、ディーバンクのメロディアスなギターが自由に紡がれるこの曲をデビューアルバム時点で作り上げたのは、フェルトのバンドとしてのポテンシャルの高さを感じさせます。そしてこの曲はもっと評価されてしかるべき曲なのに、現状フェルトファンくらいしか知らない状況なのも、フェルトの現在における知名度の低さを感じさせます(涙)。


フェルトのアルバムの中で、まず最初に聴くべきアルバムではないかもしれませんが、フェルトの魅力や個性が十二分に発揮されたアルバムなので、フェルト他作品を気に入った人ならば、まず間違いなく愛聴できるアルバムだと思います。